Far away ~いつまでも、君を・・・~
部活が終わり、彩が更衣室を出ると、必ず京香が立っていて、ちょこんと頭を下げて来る。彩はそれに笑顔で応えると、そのまま下校して行く。


あのインハイ予選最終日、気付かれないように、そっと尚輝を見守っていた京香。その姿が甦ってきて


(京香ちゃん、想いが届いてよかったね。尚輝、京香ちゃんを大事にしてあげるんだよ。)


そんなことを思いながら、彩は家路についた。


夏休みに入り、登校しなくなると、さすがに彩の足は弓道場から遠のいた。夏休みは受験生にとっての天王山、そのことは既に高校受験の経験から、彩にもよくわかっていた。


それから約ひと月後に開催された恒例のOB・OG会。彩は弓道部員としての最後の務めとして、先輩たちを迎えるホステス役を務めた。大勢の先輩がやって来て、その中に斗真も由理佳もいた。彼らの弓道着姿に懐かしさを覚えながら、彩はスタッフの一員として、忙しく動き回った。


そのあとの懇親会で、久しぶりに2人と話した。


「来年からは彩も、私たちと同じ、迎えられる方の立場だね。」


「はい、その時はまた、よろしくお願いします。」


由理佳とそんなことを話したあと


「私、大学入ってからも、弓道続けようと思います。」


と報告した。


「そっか、それはよかった。ね、斗真。」


「ああ。廣瀬は絶対そうするべきだよ。」


そう言って笑った斗真に、彩は、インハイ予選の時の彼の言葉に後押しされて、それを決めたことは言わなかった。


そして、会が終わったあと


「これで本当に区切りだから。尚輝、今までありがとう。」


そう告げると、その日を最後に、彩は弓道場に足を運ばなくなった。


2学期に入り、授業も短縮となり、学校にいる時間も少なくなると、彩は予備校に通い、自宅で机に向かった。


文化祭で、クラスで寸劇を披露したのが、高校生活の事実上の最後の思い出。後輩たちの頑張りは、耳に届いてはいたが、もう弓道部のことも尚輝のことも、自分が関わることではない。彩はそう思うだけだった。


時は流れ、受験シーズン。彩は親元を初めて離れて、ホテルに泊まりながら、受験に挑んだ。第一志望の合格の報は、自宅のパソコンからだった。彩も町田も、無事難関を突破し、4月からは共に都会での生活が始まることになった。


そして卒業。号泣する遥の横で、彩は爽やかな気持ちだった。寂しさはあったが、それ以上に新天地での新生活に心弾む思いだった。


「廣瀬彩、本日颯天高校を卒業いたします。みなさん、お世話になりました。バイバイ!」


式が終わり、弓道場で開かれた部のお別れ会で、彩は晴れやかな笑顔でそう言うと、別れを惜しむ後輩たちに手を振り、校舎を後にして行った。
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