Far away ~いつまでも、君を・・・~
第二章

「よし、今日はここまでにしよう。」


顧問の声が、颯天高校弓道場に響いた。その声に応えて、片付けに入った部員たちは、それが終了すると整列し


「ありがとうございました。」


そう言って、顧問に一礼した。それに応えて礼を返した顧問は


「お疲れさん。みんな気を付けて帰れよ。」


と笑顔で部員たちに告げた。三々五々、引き上げていく生徒たちを見送り、照明を消すと、顧問は道場を出、そして施錠を行った。


(今日も終わったな。)


まもなく5月、GWはもう間近だ。ちょっと前まで、17時の声を聞くと、真っ暗だったのに、部活が終わる18時を過ぎても、まだ明るさが残っている。


(もう初夏だな。)


温暖化の影響だろうか。近年は春があっという間に過ぎ、夏の訪れるのが、年々早まっているような気がしてならない。そんなことを考えながら、二階尚輝は歩き出した。


尚輝が、4年間の大学生活を経て、母校颯天高校に、教師として赴任してから、3年目の年を迎えていた。担当教科は地理、歴史を中心とした社会科。そして赴任と同時にかつて自分も所属した弓道部の顧問にも就任した。


尚輝が在校当時、熱心に指導してくれた顧問の児玉光雄は、尚輝が卒業した翌年に転勤で、颯天高を去っていた。後任の顧問は競技未経験者で、そのせいもあってか、部員の数は、尚輝の頃に比べると徐々に減少して行った。


尚輝の時は、1年先輩の廣瀬彩の活躍が、部員を増やすのにかなり貢献していたということもあったが、それにしても学年によっては、一学年の在籍人数が2桁を大きく割り込んでいるような有様で、OBとして尚輝は心を痛めていた。


それだけに尚輝の着任は、自身の目標を成就しただけでなく、現役の部員、OB・OG会に大いに喜ばれた。尚輝の熱心な指導や勧誘により、部員数は上昇に転じ、今年度の新入部員は10名を超え、尚輝は正直胸をなでおろしていた。


道場を出て、尚輝が足を向けたのは、校内花壇だった。季節の花が咲き誇るこの花壇は昔から、教職員、生徒の有志によって、維持管理されていて、尚輝も今は、その一員になっていた。
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