Far away ~いつまでも、君を・・・~
自動車通勤の尚輝が、下校したのは、水やりを終えてから30分ほどしてからだった。


車を走らせて5分程、近くのスーパ-の駐車場に車を滑り込ませて、少し待つと


「ありがとう。」


と言いながら、京香が勝手知ったる様子で、助手席に乗り込んで来る。生徒に2人の関係が知られるのは、好ましくないという判断から、校内ではあくまで、一同僚として接している2人。


尚輝と京香が卒業して6年が経つが、学校には、2人の在校当時から今も教鞭をとっている教師がまだ何人もいる。中には彼らが恋仲であることを知っている人もいて、そんなかつての恩師たちには、固く口留めはしている。


だが、下校の際は、京香が一足先に学校を出て、尚輝を待って、こうして合流して、一緒に帰ることが多かった。


「誰にも見られなかった?」


「多分大丈夫。」


こんな会話を交わしながら、尚輝は車をスタ-トさせる。


「なんか、すげぇ悪いことしてるみたいだよな、毎度。」


「まぁね。」


そんなことを言いながら、でも2人きりのドライブは、やっぱり楽しい。それに教師同士の恋愛において、平日夜のデートはおすすめというのはある先輩の言。


「教師同士は土日は部活があったりするから、案外会いにくい。その点平日の夜なら、もともと一緒だし、生徒も保護者も比較的、外出してるケースは少ないから、彼らに出会う可能性も低くなる。」


「なるほど・・・。」


「とにかくな。当たり前だけど、学校の近くでのデートは厳禁。生徒はもちろん、保護者の目だって、どこで光ってるか、わかったもんじゃない。その点、お前は自動車通勤だろ?だったら、パ-っと車走らせちゃえば、いよいよ安心だろ。」


ちなみにこれを話してくれたのは児玉だ。先日、久しぶりに飲んだ時に、相手がかつての教え子で、かつ今は別の高校の教師になっている気楽さからか、いろんなアドバイスをくれた。


「ついでに休日に会う時は、ありきたりのデートスポットなんて選んだら、それこそ生徒と鉢合わせする危険が高まる。ある程度の遠出は必須だぞ。」


「はい。」


「で、あれやこれや考えるとな、一番オススメなのは、いわゆる『おうちデート』だ。」


「えっ?」


「だってそうだろ?誰かに会う危険性がもっとも低いんだから。本来なら、結構ハードルが高いが、その点、お前らはもともと付き合ってるんだから、何の抵抗もないだろ。」


そう言うと、児玉は笑った。
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