Far away ~いつまでも、君を・・・~
やがて、料理も揃い、3人の会話は更に弾む。


「でも、秀も前に、本当は向こうに残りたかったって言ってたよな。」


尚輝は問い掛ける。


「うん。正直、こっちに比べて刺激が多かったし、それにさっき、京香も言ってたけど、就職先の不安はやっぱりあったからな。」


「なるほどな。」


「だから、随分迷ったんだけど、こうやって2年、またこっちで暮らしてみると、俺にはこっちの方が性に合っているかなって、最近は思ってるから、思い切って帰って来て正解だったよ。」


秀はそう答えたあと


「その点、お前は、迷いなかったもんな。」


と尚輝の顔を見る。


「そうだね。地元で進学して、教師を目指すって、かなり早い段階から言ってたもんね。」


京香もそう言って頷く。


「今更だけど、お前、全然都会へ出てみたいって気はなかったの?」


秀に尋ねられて


「俺はもともと地元を離れたくないって思ってたから。それに高校で弓道に出会って、弓道と一生関わって行きたいという、明確な目標も出来たからな。」


尚輝は答える。


「まさか、廣瀬さんに近付きたいが為だけで、始めた弓道に、お前がそこまでハマるとはな。あの時は、想像もつかなかったよ。」


そう言って笑う秀に


「確かに、最初は練習はつまんないし、いつ辞めようかと思ってたからな。」


尚輝は苦笑いで応じる。


「それが結局、大学まで続けて、今や母校で、部活の顧問として、生徒達から絶大な信頼を寄せられるまでなってるんだから。」


「えっ、そうなのか?」


からかうように秀が聞くと


「うん。1ヶ月間、見ていて、これは贔屓目なしに、間違いないよ。」


京香は力強く答える。


「京香・・・。」


恋人から褒められて、さすがに尚輝は照れ臭そうにしている。


「となれば、そこまで自分が打ち込めるものに出会わせてくれた廣瀬さんには感謝しないとな。」


と言う秀の言葉に


「そういうことになるのかな。でも、とにかくいろいろと、俺には厳しかったよ、あの人は。」


また苦笑いの尚輝。


「そう言えば、廣瀬さんって、今、どうしてるんだ?」


「大学卒業して、そのままあっちで就職してホテリエになったって聞いてる。」


「へぇ、でもお似合いかも。」


「ただ、先輩は大学へ進学してから、ほとんどこっちへ帰って来てないみたいだし、弓道部のOB・OG会にも顔を出したことがないから、俺も先輩が卒業してから、1度も会ってない。だから、詳しいことはわからんよ。」


「あんなに部活に熱心だったのに、OB会に来ないんだ。」


「うん。ま、なんにしても、あの人のことだから、元気に頑張ってるんだろうよ。」


そう言った尚輝は、少し遠くを見るような表情になった。
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