Far away ~いつまでも、君を・・・~
GWが過ぎ、中間考査が過ぎ、試験期間中の休止を経て、部活が再開された。


今、弓道部は8月のインタ-ハイの予選会が来月にあり、それに向けての練習の日々。


彩も言っていたが、高校の弓道部員は、ほぼ初心者で占められる。尚輝を含む12名の今年の1年生も、経験者は1人もいない。


従って、格好もまだ、袴や道着ではなくジャージを身に着け、筋トレや基礎練習に明け暮れていた。


もっとも筋トレと言っても、そんなハ-ドなものではなかった。


「基礎体力は必要だが、弓は筋肉じゃなくて骨で引くもんだ。それに弓を引くのに必要な筋肉は、弓で引くことでしか、鍛えられんからな。」


児玉顧問は、そんなことを言っていた。「骨で引く」の意味が分からなかったし、じゃ、この筋トレ、何の意味があるんだよ、と尚輝は内心で悪態をついていた。


更に苦痛だったのが基礎練習だ。「看取り稽古」と呼ばれる先輩達の所作の観察は、彩に熱い視線を心置きなく送れる時間で


(やっぱり彩先輩は、綺麗で凛々しくて・・・最高だよ。)


なんて悦に入っていたが、弓道の基本動作「射法八節」をマスタ-するための「徒手練」、野球のバッタ-で言えば、素振りに当たる弓を引き動作を繰り返す「素引き」などの地味な練習をひたすら繰り返す日々。


「言うまでもないが、弓は凶器だ。中途半端な状態で持たせるわけにはいかない。」


という児玉の言葉は理解できるが、それにしても、この練習をひたすら夏休み前まで繰り返させられることは、さすがに苦痛に感じて来ていた。


更に先輩達を見ていると、この基礎練習を卒業しても、あとは黙々と1人弓を引く練習に、多くの時間が費やされている。


(なんなんだよ、この部活は・・・。)


内心、嘆く尚輝。そして、そう思っているのは、どうやら尚輝1人ではないようで、早くも退部を口にする同級生も出始めていた。


(辞めちまうか・・・。)


そんな思いが、尚輝の胸にも浮かび上がるようになって来ていた。もともと競技に興味があったわけではない。はっきり言って、不純な動機で入部したことは、充分に自覚していた。
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