モノクロの世界で、君が手を差しのべてくれたから
(うまくいくかどうかなんて分からないけど、やってみる価値はある?)

 そんな大それたことが、まかり通るなんて思わないけど、うまくいけば私が萌になれるかもしれない。

 こんなことを考える私はどうかしている。お父さんやお母さん、それに周りを騙すなんて良くないことだって分かっているけど、必要とされていない「紗英」でいるのはもう……苦しい。

 そう考えた私は自分の部屋に行って、思いっきり髪を切った。

 萌は髪の長さが顎くらいまでのボブ。
 ふたりで撮った写真がスマホに残っているため、それを見ながら、見様見真似でハサミを入れていく。
 普段から、前髪程度なら自分でカットしたりもしていたから、カットすること自体に迷いはなかったものの、失敗は許されない。


 二十分後。
 なんとか……萌っぽくなった私が鏡に映っていた――。


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