憧れのヒーローはヤンキー?いや、私の王子様でした
分からないと嘆いてる彩を放って、コーヒーを淹れながら砂糖とミルクも準備する。
こんだけ入れれば彩も飲めるだろうと考えながら視界の隅に見える彩が抱いてる箱を見る。
ここで作業してた時に横山が来て、『メリークリスマス』とだけ言って置いて行ったものだ。
区切りがついて冷蔵庫を開ければでかい箱が入ってて中身がケーキだと分かった時は、1人暮らしの家にでかいホールケーキ持ってくるなと思ったけど、箱に書いてあった文字が少しだけ煩わしい気持ちを消した。
横山が知らない女に書かせたものだと分かってるのに、その文言が彩の声で再生された。
あいつ理玖くんとか言わねえのに…。
そう思いながら今日まで捨てれないでいた。
「横山さんが理玖のこと大好きで。私はたまたま書いただけで…。横山さんと会ったのは今日が初めてだと思ってたし…。」
混乱してる彩に何も言わずに無視を決め込む。
じゃないと俺が自爆する。
彩に会えないのを良い機会だと言って、溜まりつつあった物を引きこもって作業する俺に横山が気を遣った。
ただそれだけのこと。
誇った顔をする横山を想像してむかつくが、まあそれだけ俺の引きこもりが長かったんだろう。
「それはもういいから。あっち行くぞ。」
「えっ!いいのか…?あ、待って!」
カップを持って振り返ると箱を抱き直しながら。
「これ…、捨てる?」
「本人の口から聞けたら捨てれるかもな。」
「えっ!?それは…。……え?理玖、もしかして好きな人いる…?」
曖昧に笑って彩を置いてソファへと戻る。
王子様が迎えに行くタイミングって大事だよな…。