君と笑い合えるとき
私とは真逆,背の高い彼を何て呼べばいいのか分からなくなったのは,きっと恋を自覚してから。

静流くん,なんて呼んでたはずなのに。

いざなぞろうとすると,全神経が顔に集まって,結局は音にならない。

17歳の静流くんは,今日も今日とて,格好いい。

溢れる魅力は,何処にいたって輝いている。



「きこ,どうしたの?」



視線に気付き,ううん,いい加減気になって。

静流くんが言う。

私はふるふると首を振った。

きこって呼ばれると,どきりとする。

なのに,なんでか嬉しくなる。

その音が柔らかいのは,両親にひらがなの名前をつけて貰ったからじゃなくて。

口にするのが,静流くんだから。

顔を逸らすと,目に映るのはピンクいろ。

何度も同じ浴衣ばかりを見せるのは,何だか勿体無い気がして。

お母さんに贅沢を言って新調して貰った浴衣だった。



「……なぁに?」



静流くん。

その言葉だけ,喉に取り残される。

視線を受ける方には慣れなくて,私は私をじっと見ていた静流くんに問いかけた。

くすくすと静流くんが笑う。

柔らかく握るようにした手を鼻先につける,少し繊細な笑いかた。

そんな静流くんに,また瞳を奪われる。



「新しくしたの,似合ってるよ,きこ」
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