千燈花〜ETERNAL LOVE〜
「宮までおくろう」
「はい」
幸せな時間は一瞬で過ぎる。重い足取りのまま小屋の前で待つ馬車に乗り込んだ。馬は私の心を察したのかゆっくりゆっくりと歩き始めた。
「橘宮には実は何年も訪れてなかった…。こんなに目と鼻の先なのにいつのまにか疎遠になってしまっていた…」
どこか寂しげな横顔だ。以前にも茅渟王のこんな横顔を見た事を思い出した。
「…茅渟王様のことお聞きしました。誠に残念で悲しみの言葉が見つかりません…」
山代王は遠くを見つめ少し沈黙した後、重い口を開いた。
「…兄上の無念を晴らす為に、私はここまで生きてきた…いつか、必ず…」
山代王が唇をキュッと噛んだ後、握った拳にもう一度力を込めたのがわかった。私も黙ったまま山代王の横顔を見つめた。馬車のガタガタという音だけが響いた。山代王は深く深呼吸を一つして言った。
「そなたも今の都の状況を知っているはず、しばらくは会う事が難しいかもしれぬが、出来る限り機会を見つけそなたに会いに行くゆえ、もう少しだけ待っていて欲しい」
「はい…」
馬車はいつのまにか橘宮へと続く坂の下に着いていた。
「では、また…」
私はそう言い軽く一礼をしたあと馬車を降りた。別れの時間を長引かせたくなんかない。
「何かあれば玖麻に相談しなさい。すぐに参るゆえ」
山代王が言った。私が頷くと彼は微笑み、掛け声をあげ馬車を出発させた。徐々に馬車が遠く小さくなっていく。次はいつ会えるのだろう…。
真っ赤に染まった空を見上げながら宮の門へと歩いた。
東門に近づくと門の横で薪を割っていた漢人が駆けてきた。
「燈花様、お帰りなさいませ。先ほど山代王様の馬車をお見受けいたしましたが…」
「送ってもらったのよ」
「さようでございますか、やはり燈花様と山代王様には切っても切れない特別なご縁があるように思います」
漢人が感慨深げに言った。
「そうね…」
漢人がいうように、私達の間には切っても切れない縁がある…たとえそれがどんな形だとしても…。
「燈花様?大丈夫ですか?なにか心配ごとでも?」
漢人が不思議そうに覗き込んだ。
「え?いいえ、お腹空いたのよ」
「そうですよね、すぐに夕飯を運びますので、部屋で休まれて下さい」
「ありがとう」
慌てて誤魔化すように答えたが、そんなに思い詰めた顔でもしていたのだろうか?満たされた幸せな気持ちでいるのに…
部屋に戻るとすぐに小彩が夕食を運んできてくれた。
「燈花様、今お戻りでございますか?こんなに遅くまで、燈花様をこき使うなんて薬草庫の責任者はどういうつもりかしら?」
小彩は顔をしかめて言った。
「違うのよ。…帰りがけに山代王様とお会いしたのよ」
「ま、まことでございますか?初日からお会いできたのですか?」
「まぁね…」
「安心いたしました。王様に十三年前の事を責められるかもしれないと少し心配していたのです。茅渟王様の事は、きっと時がくればお話してくださるのでは?」
「そうね、何があったかはわからないけど、きっと時がくれば話して下さるわね。それよりも今は離れていた時間を埋めていくつもりよ」
「良かった、本当に安心しました」
小彩は安堵のため息をつき微笑んだ。そう、焦る事はない。ゆっくり時間をかけて二人の時間を取り戻そう…。
その晩、私は小彩に無理やり頼んで沈香を焚いてもらった。そして今は亡き茅渟王を偲んだ。
「はい」
幸せな時間は一瞬で過ぎる。重い足取りのまま小屋の前で待つ馬車に乗り込んだ。馬は私の心を察したのかゆっくりゆっくりと歩き始めた。
「橘宮には実は何年も訪れてなかった…。こんなに目と鼻の先なのにいつのまにか疎遠になってしまっていた…」
どこか寂しげな横顔だ。以前にも茅渟王のこんな横顔を見た事を思い出した。
「…茅渟王様のことお聞きしました。誠に残念で悲しみの言葉が見つかりません…」
山代王は遠くを見つめ少し沈黙した後、重い口を開いた。
「…兄上の無念を晴らす為に、私はここまで生きてきた…いつか、必ず…」
山代王が唇をキュッと噛んだ後、握った拳にもう一度力を込めたのがわかった。私も黙ったまま山代王の横顔を見つめた。馬車のガタガタという音だけが響いた。山代王は深く深呼吸を一つして言った。
「そなたも今の都の状況を知っているはず、しばらくは会う事が難しいかもしれぬが、出来る限り機会を見つけそなたに会いに行くゆえ、もう少しだけ待っていて欲しい」
「はい…」
馬車はいつのまにか橘宮へと続く坂の下に着いていた。
「では、また…」
私はそう言い軽く一礼をしたあと馬車を降りた。別れの時間を長引かせたくなんかない。
「何かあれば玖麻に相談しなさい。すぐに参るゆえ」
山代王が言った。私が頷くと彼は微笑み、掛け声をあげ馬車を出発させた。徐々に馬車が遠く小さくなっていく。次はいつ会えるのだろう…。
真っ赤に染まった空を見上げながら宮の門へと歩いた。
東門に近づくと門の横で薪を割っていた漢人が駆けてきた。
「燈花様、お帰りなさいませ。先ほど山代王様の馬車をお見受けいたしましたが…」
「送ってもらったのよ」
「さようでございますか、やはり燈花様と山代王様には切っても切れない特別なご縁があるように思います」
漢人が感慨深げに言った。
「そうね…」
漢人がいうように、私達の間には切っても切れない縁がある…たとえそれがどんな形だとしても…。
「燈花様?大丈夫ですか?なにか心配ごとでも?」
漢人が不思議そうに覗き込んだ。
「え?いいえ、お腹空いたのよ」
「そうですよね、すぐに夕飯を運びますので、部屋で休まれて下さい」
「ありがとう」
慌てて誤魔化すように答えたが、そんなに思い詰めた顔でもしていたのだろうか?満たされた幸せな気持ちでいるのに…
部屋に戻るとすぐに小彩が夕食を運んできてくれた。
「燈花様、今お戻りでございますか?こんなに遅くまで、燈花様をこき使うなんて薬草庫の責任者はどういうつもりかしら?」
小彩は顔をしかめて言った。
「違うのよ。…帰りがけに山代王様とお会いしたのよ」
「ま、まことでございますか?初日からお会いできたのですか?」
「まぁね…」
「安心いたしました。王様に十三年前の事を責められるかもしれないと少し心配していたのです。茅渟王様の事は、きっと時がくればお話してくださるのでは?」
「そうね、何があったかはわからないけど、きっと時がくれば話して下さるわね。それよりも今は離れていた時間を埋めていくつもりよ」
「良かった、本当に安心しました」
小彩は安堵のため息をつき微笑んだ。そう、焦る事はない。ゆっくり時間をかけて二人の時間を取り戻そう…。
その晩、私は小彩に無理やり頼んで沈香を焚いてもらった。そして今は亡き茅渟王を偲んだ。