千燈花〜ETERNAL LOVE〜

二人の青年

 どれくらい待っただろうか、奥の屋敷の方からバタバタと足音と男達の声が聞こえ飛び起きた。さっき門の前で会った体格の良い男達数人と青年が屋敷からゾロゾロと出てきている。男達は歩きながらガヤガヤと何やら話し、ちらりとこちらを見たがすぐに何も見なかったかの様に通り過ぎていった。

 彼らと少し距離を置いて青年が歩いている。青年は庭の隅に立っている私の姿に気づいたのか、立ち止まるとこちらを見た。遠目であったが視線が合ったような気がして慌てて会釈をした。

 顔を上げた時には彼の姿はなく、颯爽と歩く後ろ姿だけが見えた。

 あ~驚いた…さっき門の前で見た青年よね、山代王様だったっけ…でもなんとなく優しい眼差しだった気もする…気のせいだろうか…

 そんな事を考えていた時、

 「燈花(とうか)や、待たせたな」

 と老女のか細い声が背後から聞こえた。振り返り見ると、中宮が目の前に立っている。

 「すまぬな、だいぶ待たせてしまった。体は冷えてないか?」

 「はい、大丈夫です。なんともありません。それよりも中宮様のお身体が心配で小彩(こさ)に無理を言って参ったのです。具合はどうですか?」

 「これだけ長く生きていれば、体にガタはくるものだ…安じさせてしまって悪かったのぉ…さ、中に入って熱い茶でも飲もう」

 中宮はそう言うと、私の冷たくなった手をそっと握った。温もりのある優しい年老いた手だ。中宮に手をひかれるまま屋敷に入ると、昨日とは違う明るい客間のような部屋に連れて行かれた。

 部屋からさっきまで居た中庭が見え、黄色に染まった大きなイチョウの木も見えた。

 「熱い茶だよ、ほれ飲みなさい」

 「あ、ありがとうございます。本当に熱い」

 「ゆっくりお飲み」

 受け取った湯飲みから金木犀の花の香りがプーンと漂った。

 「中宮様、お身体は本当に大丈夫なのですか?顔色もまだ優れぬように見えますが…」

 「ふぅ…もう十分生きた、いつ死んでも良いのだ…ただ少し気がかりがあってな…」

 そう言うと中宮は寂しげに笑いうつむいてしまった。

 「私に何か出来る事はありますか?」

 思わず自分でもビックリするくらい大胆な事を言ってしまった。中宮は顔を上げ私を見ると、

 「では、その時がきたらそなたに話してみよう…」

 とだけ言い、再びうつむいた。

 なぜか気持ちがモヤモヤする。何かは分からないがとにかく不安な気持ちだった。
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