千燈花〜ETERNAL LOVE〜
「燈花や、今日屋敷の前で若い皇子と会ったであろう?」
「えっ、先ほどの青年…、や…山代王様の事でしょうか?」
「そうだ、あの青年が山代王だ。まだまだ若く未熟ではあるが、代々受け継がれてきた大王一家のものだ」
「はい…」
山代王に関しては全く知らないが、中宮の話に耳を傾けた。
「幼い頃より愛嬌があり、わしも可愛がっていてな…孫のような存在だ。だがあの子の父親も数年前に死んでしまった…立派な君子であった…頑固なところもあるが実に優しい子だ。明日の宴の準備で忙しいだろうに、わざわざ見舞いに来てくれたのだ。帰りに皇子に土産を渡そうと思っていたのだがすっかり忘れてしまってな。明後日、大王の屋敷で大事な宴があるのだが、私は見ての通りこの体では出られぬ。すまぬがこの品を宴の席で直接あの子に渡して欲しいのだ」
中宮は麻の布にくるまれた物を出した。
「中身はあの子の好物の干し柿だ」
「えっ、私のような下僕のものでは宴には出られません。無礼もいいところでございます。誰が別に託せる方はいらっしゃらないのですか?」
「何を言う。そなただからこそ頼みたいのだ…それに大王はこの宮で働く者たちにあまり好意を持っていないのだ。そなたならまだ都では顔が知られていないし、私の大切な身内でもあり身分は保証されている。東国から来たのだから宮中とは無縁だとすぐにわかるはず…適任だよ」
「しかし…」
私は言葉に詰まった。中宮にここまでお願いされているのに無下に断る事は出来ない。
「承知いたしました。では明後日、小彩と共に伺ってみます」
「安心した、頼まれておくれ」
一気に不安な気持ちが押し寄せたが、中宮の心から安堵した表情を見たら、不思議と心は落ち着き覚悟を決めた。まるで昔から知り合いのようで中宮との時間はあっという間に流れた。
「燈花様」
戸口の向こうから小彩の呼ぶ声が聞こえた。
「入りなさい」
中宮がそう言うやいなや戸がピシャっと勢いよく開き、嬉しそうな様子の小彩が軽い足取りで部屋の中へと入ってきた。
「燈花様、中宮様とは十分お話されましたか?」
「小彩や、こたびも心配かけたな」
「いいえ、中宮様がご無事で私も安心しました。燈花様がそりゃもう心配されて心配されて大変でした」
小彩は私を見ていたずらそうに笑った。
「二人ともすまぬな。安ずるでない。二人にこんなに思われて、長生きも悪くないと思ったぞ」
中宮が笑いながら言うと、
「中宮様。どうか私の為にもお体ご自愛ください」
小彩は真顔で言い中宮を見つめた。
中宮は何も言わずに優しく小彩の頭を撫でた。
帰る頃にはすっかり日が傾き薄暗くなっていた。中宮に挨拶をしたあと宮を出たが、市に行く時間はなさそうだ。
「ごめんね、小彩。私が長く中宮様と話し込んでしまったせいで市には行けないわね…」
「大丈夫ですよ、燈花様。ただ釜戸の薪がないので、せめて薪だけでも買ってゆきたいです。かまいませんか?」
「もちろんよ。まだ間に合う?」
「はい、少し回り道をしますが、まだ開いている店に寄らせて頂きますね」
「良かった。では急いで行きましょう」
「えっ、先ほどの青年…、や…山代王様の事でしょうか?」
「そうだ、あの青年が山代王だ。まだまだ若く未熟ではあるが、代々受け継がれてきた大王一家のものだ」
「はい…」
山代王に関しては全く知らないが、中宮の話に耳を傾けた。
「幼い頃より愛嬌があり、わしも可愛がっていてな…孫のような存在だ。だがあの子の父親も数年前に死んでしまった…立派な君子であった…頑固なところもあるが実に優しい子だ。明日の宴の準備で忙しいだろうに、わざわざ見舞いに来てくれたのだ。帰りに皇子に土産を渡そうと思っていたのだがすっかり忘れてしまってな。明後日、大王の屋敷で大事な宴があるのだが、私は見ての通りこの体では出られぬ。すまぬがこの品を宴の席で直接あの子に渡して欲しいのだ」
中宮は麻の布にくるまれた物を出した。
「中身はあの子の好物の干し柿だ」
「えっ、私のような下僕のものでは宴には出られません。無礼もいいところでございます。誰が別に託せる方はいらっしゃらないのですか?」
「何を言う。そなただからこそ頼みたいのだ…それに大王はこの宮で働く者たちにあまり好意を持っていないのだ。そなたならまだ都では顔が知られていないし、私の大切な身内でもあり身分は保証されている。東国から来たのだから宮中とは無縁だとすぐにわかるはず…適任だよ」
「しかし…」
私は言葉に詰まった。中宮にここまでお願いされているのに無下に断る事は出来ない。
「承知いたしました。では明後日、小彩と共に伺ってみます」
「安心した、頼まれておくれ」
一気に不安な気持ちが押し寄せたが、中宮の心から安堵した表情を見たら、不思議と心は落ち着き覚悟を決めた。まるで昔から知り合いのようで中宮との時間はあっという間に流れた。
「燈花様」
戸口の向こうから小彩の呼ぶ声が聞こえた。
「入りなさい」
中宮がそう言うやいなや戸がピシャっと勢いよく開き、嬉しそうな様子の小彩が軽い足取りで部屋の中へと入ってきた。
「燈花様、中宮様とは十分お話されましたか?」
「小彩や、こたびも心配かけたな」
「いいえ、中宮様がご無事で私も安心しました。燈花様がそりゃもう心配されて心配されて大変でした」
小彩は私を見ていたずらそうに笑った。
「二人ともすまぬな。安ずるでない。二人にこんなに思われて、長生きも悪くないと思ったぞ」
中宮が笑いながら言うと、
「中宮様。どうか私の為にもお体ご自愛ください」
小彩は真顔で言い中宮を見つめた。
中宮は何も言わずに優しく小彩の頭を撫でた。
帰る頃にはすっかり日が傾き薄暗くなっていた。中宮に挨拶をしたあと宮を出たが、市に行く時間はなさそうだ。
「ごめんね、小彩。私が長く中宮様と話し込んでしまったせいで市には行けないわね…」
「大丈夫ですよ、燈花様。ただ釜戸の薪がないので、せめて薪だけでも買ってゆきたいです。かまいませんか?」
「もちろんよ。まだ間に合う?」
「はい、少し回り道をしますが、まだ開いている店に寄らせて頂きますね」
「良かった。では急いで行きましょう」