千燈花〜ETERNAL LOVE〜

変わらぬ日々

  いつも通りの変わらぬ朝を迎えたが、胸のざわめきはいっこうに収まらなかった。一階のリビングに降りシャッターを開けると、柔らかな朝の光と共に庭に咲く金木犀の香りが一気に押し寄せ優しく体を包み込んだ。

 見上げた秋空はどこまでも高く青く澄みわたっている。金木犀の香りを胸いっぱいに吸い込むと、先ほどまでのざわめきは嘘のように消え穏やかな気持ちになった。

 「おはよう燈花(とうか)、ふぁ…まだ眠い」

 一緒に暮らす七歳年上の姉がけだるそうな足つきで階段から降りてきた。

 「あっ、おはようお姉ちゃん、まだ起きるには早いんじゃない?」

 「今日は日帰り出張なのよ、帰りが遅くなるけど良い?」

 「大丈夫よ、心配しないで気をつけて行ってきて」

 「ごめんね、いつも…」

 姉は申し訳なさそうに言いため息をついた。姉とは数年前から一緒に暮らしている。突然夫を亡くし若くして未亡人になった姉はしばらく女手一つで二人の娘を育てていたが、仕事をしながら子供たちを育てるのは容易ではない。

 私たちは両親を早くに亡くしたので姉とは互いに助け合い寄り添い合って生きてきた。私は少しでも姉の力になりたいと思い一緒に住み、二人の姪の育児を手伝っている。

 姉は会社勤めだが、私は幸いにも大好きなアロマの知識を生かし、アロマセラピストとして両親が残してくれたこの家で小さな教室を開いている。ドラマティックな事も起こらないし、なんの変化もない平凡な日々だがこれが人生なのだろうと、疑うことはなかった。
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