千燈花〜ETERNAL LOVE〜
同じ頃大王の邸では、
「うーん、誰かおらぬか?イタタタ…」
大王は頭を押さえながら起き上がった。
「大王様⁉︎お目覚めですか」
夜通し側で付き添っていた側近の男は飛び起きると、かん高い声で言った。男の目の下は真っ黒なクマができている。立ち上がったものの足元はよろよろとフラつき、目もおぼつかない。
「おぅ三輪であるか、そなた何故ここにいるのだ?」
大王は側近の三輪に気がつくと、後頭部をさすりながら不思議そうに尋ねた。昨晩の出来事をあまり記憶していないようだ。
「大王様、まずは主治医を呼んで参りますので…誰かそこにおらぬか!主治医を呼んでまいれ!」
側近の男が叫ぶと、部屋の外にいた侍女がバタバタと主治医を呼びに向かった。側近の男は大王の側に戻ると、昨夜の出来事をためらいがちに話し始めた。
「大王様は昨晩、龍王ヶ湯の側で足を滑らせ湯に落ちたのですが、その時に岩に頭を打ちつけ、湯の中で気を失われたのです。すぐに我々で引き上げましたが、水を大量に飲んでしまいまして…その、王様は息をしておりませんでした…、で、その…右往左往していた時に、得たいの知れぬ侍女が急に現れまして、その…」
側近の男がちょうど言葉に詰まった時だ、
トントン、トントン。
誰かが部屋の戸を叩いた。
「兄上お目覚めですか?私です。主治医を連れて参りました。中に入ってもよろしいですか?」
「山代王か?構わぬ、入りなさい」
ガタガタと戸が開き山代王と主治医の男が一緒に部屋の中へと入ってきた。
「兄上、お体の具合はどうでございますか?」
「山代王よ、心配をかけたな。うむ、体はなんともないが、頭がズキズキと痛むのだ」
すると主治医の男が言った。
「昨夜、転倒された時のものだと思います。新しい湿布を作りましたので、コブに当てて冷やして下さい。痛みが和らぎます」
「すまぬな。そなたが昨夜私を救ってくれたのか?」
それを聞き驚いた主治医の男と側近の男は互いに顔を見合せるとバツが悪そうにうつむいた。山代王も興味深く二人を見ている。二人ともチラチラと大王の顔を見ながらそれでもまだ口をつぐんでいる。
「どうしたのだ?はっきり申さぬか」
大王が少しイラついたような口調で二人に言った。
「それが…」
側近の男は覚悟をしたのか、昨夜の出来事を大王と山代王の顔色を伺いながら、時折言葉を詰まらせ再び話し始めた。
「な、なんと…」
話の始終を聞いた大王が驚いた表情で言った。
「大王様、どうかお許し下さい、その穢らわしい無礼者を即刻見つけ、厳しく処罰致します」
側近の男が強い口調で答えた。すると黙って話を聞いていた主治医の男が冷静に言った。
「王様、僭越ながら私からも一言申し上げてもよろしいですか?」
「申してみよ」
「はい、確かに、この話は前代未聞であり大胆奇抜な行動ではありましたが、その侍女の処置方法は理にかないます。適切な処置であったからこそ、王様のお命が救われたのも事実でございます」
「ふむ、なるほど…山代王よ、そなたはどう思う?」
「大変驚くばかりの話ですが、私も主治医と同意見です。その侍女も自らの処遇などかえりみず、とっさに兄上をお救いしたのでしょう。勇気ある行動であり、誰にでも出来る事ではありません。その者をただただ責めるわけにはゆかぬかと…」
「私もそう思う。私はその者に救われた。夢だと思っていたが、確かに遠のく意識の中で私を呼ぶ女人の声を聞いた。見つけ出して礼をしなければ。むしろ命の恩人と呼ぶべきかな、、、」
大王がクスッと笑った。
「しかし、大王さま此度の行幸は多くの宮から侍女が参っており、どこの宮の侍女かもわかりません。ただ近くの村の女かもしれませんし、どちらにせよ卑しい身でありながら、神聖な大王様のお体にましてや、その…唇に触れるなど恐れ多い事であり、やはり許される事ではありません!」
側近の男はフンフンと鼻をならしながらまだ口をへの字に曲げている。
「まぁ三輪よ、そう怒るな。緊急事態だったのだから仕方なかろう、結果私は救われたのだ。むしろその者はもう、よそへは嫁げまい…ふむ…私が娶らなければならぬかな?」
「大王様!悪いご冗談はお止め下さい」
側近の男は汗をダラダラとたらし、しかめっ面をして頭を抱えた。大王と主治医はその姿を見て笑ったが大王は心の中でなかなか良い案だと真剣に思った。
「兄上、では私が内密にその侍女を探してみます」
山代王が言った。
「そうか、頼んだぞ。ところで燈花は無事着いたのか?」
「はい。ここに来る前にあの者らの部屋の前が騒がしかったので、様子を見に寄りました。小彩の話しでは、どうやら今朝より高熱を出し床に伏せているようです。恐らく旅の疲れで体調を崩したのでしょう」
「そうであったか、、到着したばかりだというのに可哀想に…見知らぬ土地であるし、さぞ不便であろう。侍女たちにしっかり面倒をみるように命じておこう」
「お願いいたします」
「うーん、誰かおらぬか?イタタタ…」
大王は頭を押さえながら起き上がった。
「大王様⁉︎お目覚めですか」
夜通し側で付き添っていた側近の男は飛び起きると、かん高い声で言った。男の目の下は真っ黒なクマができている。立ち上がったものの足元はよろよろとフラつき、目もおぼつかない。
「おぅ三輪であるか、そなた何故ここにいるのだ?」
大王は側近の三輪に気がつくと、後頭部をさすりながら不思議そうに尋ねた。昨晩の出来事をあまり記憶していないようだ。
「大王様、まずは主治医を呼んで参りますので…誰かそこにおらぬか!主治医を呼んでまいれ!」
側近の男が叫ぶと、部屋の外にいた侍女がバタバタと主治医を呼びに向かった。側近の男は大王の側に戻ると、昨夜の出来事をためらいがちに話し始めた。
「大王様は昨晩、龍王ヶ湯の側で足を滑らせ湯に落ちたのですが、その時に岩に頭を打ちつけ、湯の中で気を失われたのです。すぐに我々で引き上げましたが、水を大量に飲んでしまいまして…その、王様は息をしておりませんでした…、で、その…右往左往していた時に、得たいの知れぬ侍女が急に現れまして、その…」
側近の男がちょうど言葉に詰まった時だ、
トントン、トントン。
誰かが部屋の戸を叩いた。
「兄上お目覚めですか?私です。主治医を連れて参りました。中に入ってもよろしいですか?」
「山代王か?構わぬ、入りなさい」
ガタガタと戸が開き山代王と主治医の男が一緒に部屋の中へと入ってきた。
「兄上、お体の具合はどうでございますか?」
「山代王よ、心配をかけたな。うむ、体はなんともないが、頭がズキズキと痛むのだ」
すると主治医の男が言った。
「昨夜、転倒された時のものだと思います。新しい湿布を作りましたので、コブに当てて冷やして下さい。痛みが和らぎます」
「すまぬな。そなたが昨夜私を救ってくれたのか?」
それを聞き驚いた主治医の男と側近の男は互いに顔を見合せるとバツが悪そうにうつむいた。山代王も興味深く二人を見ている。二人ともチラチラと大王の顔を見ながらそれでもまだ口をつぐんでいる。
「どうしたのだ?はっきり申さぬか」
大王が少しイラついたような口調で二人に言った。
「それが…」
側近の男は覚悟をしたのか、昨夜の出来事を大王と山代王の顔色を伺いながら、時折言葉を詰まらせ再び話し始めた。
「な、なんと…」
話の始終を聞いた大王が驚いた表情で言った。
「大王様、どうかお許し下さい、その穢らわしい無礼者を即刻見つけ、厳しく処罰致します」
側近の男が強い口調で答えた。すると黙って話を聞いていた主治医の男が冷静に言った。
「王様、僭越ながら私からも一言申し上げてもよろしいですか?」
「申してみよ」
「はい、確かに、この話は前代未聞であり大胆奇抜な行動ではありましたが、その侍女の処置方法は理にかないます。適切な処置であったからこそ、王様のお命が救われたのも事実でございます」
「ふむ、なるほど…山代王よ、そなたはどう思う?」
「大変驚くばかりの話ですが、私も主治医と同意見です。その侍女も自らの処遇などかえりみず、とっさに兄上をお救いしたのでしょう。勇気ある行動であり、誰にでも出来る事ではありません。その者をただただ責めるわけにはゆかぬかと…」
「私もそう思う。私はその者に救われた。夢だと思っていたが、確かに遠のく意識の中で私を呼ぶ女人の声を聞いた。見つけ出して礼をしなければ。むしろ命の恩人と呼ぶべきかな、、、」
大王がクスッと笑った。
「しかし、大王さま此度の行幸は多くの宮から侍女が参っており、どこの宮の侍女かもわかりません。ただ近くの村の女かもしれませんし、どちらにせよ卑しい身でありながら、神聖な大王様のお体にましてや、その…唇に触れるなど恐れ多い事であり、やはり許される事ではありません!」
側近の男はフンフンと鼻をならしながらまだ口をへの字に曲げている。
「まぁ三輪よ、そう怒るな。緊急事態だったのだから仕方なかろう、結果私は救われたのだ。むしろその者はもう、よそへは嫁げまい…ふむ…私が娶らなければならぬかな?」
「大王様!悪いご冗談はお止め下さい」
側近の男は汗をダラダラとたらし、しかめっ面をして頭を抱えた。大王と主治医はその姿を見て笑ったが大王は心の中でなかなか良い案だと真剣に思った。
「兄上、では私が内密にその侍女を探してみます」
山代王が言った。
「そうか、頼んだぞ。ところで燈花は無事着いたのか?」
「はい。ここに来る前にあの者らの部屋の前が騒がしかったので、様子を見に寄りました。小彩の話しでは、どうやら今朝より高熱を出し床に伏せているようです。恐らく旅の疲れで体調を崩したのでしょう」
「そうであったか、、到着したばかりだというのに可哀想に…見知らぬ土地であるし、さぞ不便であろう。侍女たちにしっかり面倒をみるように命じておこう」
「お願いいたします」