千燈花〜ETERNAL LOVE〜
桃色の山茶花
「燈花様、朝ですよ起きてください」
小彩の声が響く。寝不足で頭がまだボーッとしていたが、体は昨日よりも断然軽く感じた。
「もう、熱はすっかり引いたようですね」
小彩は私の額に手を当てるとホッとため息をついた。
「ええ、昨日よりもだいぶ楽になったわ」
「すぐに、お粥を作ってまいります」
「ありがとう」
小彩は幾人かの侍女を呼び厨房へと行ってしまった。戸の隙間から朝のひんやりとした風が入ってくる。冷たい空気を何度か吸い込むと頭がスッキリした。
そう、今日こそ大王様にご挨拶に行かなければいけない。何があってもあの日の侍女が自分だとバレてはいけない、、きっと大丈夫。何もかも上手くいく。自分に言い聞かせながら、もう一度目を閉じた。
大王の邸では一人の臣下が朝から大王の寝所を訪ねていた。
「大王様、中に入ってもよろしいですか?」
「入りなさい」
「はい」
ゴトゴト、ゴトゴトゆっくりと戸が開いた。
「大王様に拝謁いたします」
臣下の男は部屋へと入ると、静かに膝をついて挨拶をした。
「まだ朝食を取ったばかりだぞ、朝早くからどうしたのだ?急ぎの用か?」
大王が少し不機嫌そうに言った。
「いえ、、急用ではないのですが、その、昨夜、部下より報告がありましたので、念のため朝一番で参りましたが…また出直してまいります」
「構わぬ、せっかく来たのだから申してみよ。で?」
大王は朝食を取り終わったばかりの口を布で拭きながら言った。
「実は、昨日部下が龍王ヶ湯のあたりを見回っていた時に湯を囲む石の陰に落ちていたものがありまして…」
そう言うと臣下の男はゴソゴソと衣から手巾を取り出しくるまれていた中の指輪を見せた。
「ん?指輪?近くに持ってまいれ」
「はっ」
臣下の男は指輪と手巾を大王にそっと手渡した。
(橘の刺繍?…しかもこの指輪…)
「この指輪をどこで拾ったと?」
「はい、先日大王さまがお倒れになったあの湯でございます。大変高価な石ですし、大王さまのものかと思い、持って参りました」
「さようであったか…私の他にもあの湯に行った者がいるのでは?」
「いえ、あの日以来、石が崩れ落ちてしまい湯も濁り危険な為、立ち入りを禁じております。誰も近寄ってはないはずですが、、、」
「ふぅーん、、なるほど…ではこれは私が預かっておく。下がってよい」
「はっ」
臣下の男は丁寧に拝礼すると部屋から出て行った。
(似ている…この指輪は確かに…)
大王は暫くその指輪を眺めると、部屋の外にいる別の臣下に向け叫んだ。
「おい、誰かそこにいるか?山代王を連れてまいれ!」
「はっ」
そして、また翡翠の指輪をじっと見つめた。
トントン、トントン
「大王様、お呼びでございますか?」
山代王の声だ。
「入りなさい」
「はい」
ゴトゴトと戸が開き、山代王が部屋に入ってきた。
「大王様に拝謁いたします」
「堅苦しい挨拶はいらぬ、こちらに来なさい」
「はい」
大王は山代王を目の前に座らせると、さっそく手に握っている翡翠の指輪を見せた。
「はっ⁉︎」
指輪を見た山代王は一瞬驚いた表情を見せた。
「これは、そなたの指輪ではないのか?」
大王が優しい声で尋ねた。
「あ、兄上それをどこで⁈」
山代王の顔は若干青ざめているようにも見える。
「やはり、そなたのものであったか…いや臣下が龍王ヶ湯の側で見つけ、今朝届けにきたのだ」
「龍王ヶ湯、、」
山代王がポツリと言った。
「やはり、そなたもあの湯に行ったのだな。そなたと共に行けば転んで怪我などしなかったはず…」
大王が残念そうに言った。
「……えぇ、、」
(この指輪は確かに私のもの、いや先日燈花に渡したものだ…)
山代王は両手をギュッと膝の上で握った。
「この指輪は、そなたが母君から貰った大事な形見だろう?唯一無二の代物だぞ。二度と落とさぬように気をつけなくてはならぬぞ」
大王はそう言うと、山代王に指輪と手巾を手渡した。山代王は指輪を受け取ると静かに言った。
「はい、以後気をつけます。なんと御礼を申せば良いのか、、、」
「何をいう、そなたとは母親こそ違えど実の兄弟だ、水くさい事を申すな」
「感謝いたします」
ちょうどその時、コンコン、コンコンと部屋の戸を叩く音がし、側近の三輪が現れた。
「大王様、私です。よろしいですか?」
「どうした?」
「はい、只今橘宮より、燈花と申す女官とその侍女小彩が挨拶に参っておりますが、どうされますか?」
「そうか、丁度良かった。通しなさい」
大王が待っていたかのように興奮気味に答えた。
「では、兄上、私はこれで失礼いたします」
山代王は急かし気味に言い立ち上がった。
「何を慌てているのだ?もう少しここにいなさい」
大王はそう言うと山代王を引き留めた。
「…はい」
山代王は静かに頷くと再びその場に座った。
小彩の声が響く。寝不足で頭がまだボーッとしていたが、体は昨日よりも断然軽く感じた。
「もう、熱はすっかり引いたようですね」
小彩は私の額に手を当てるとホッとため息をついた。
「ええ、昨日よりもだいぶ楽になったわ」
「すぐに、お粥を作ってまいります」
「ありがとう」
小彩は幾人かの侍女を呼び厨房へと行ってしまった。戸の隙間から朝のひんやりとした風が入ってくる。冷たい空気を何度か吸い込むと頭がスッキリした。
そう、今日こそ大王様にご挨拶に行かなければいけない。何があってもあの日の侍女が自分だとバレてはいけない、、きっと大丈夫。何もかも上手くいく。自分に言い聞かせながら、もう一度目を閉じた。
大王の邸では一人の臣下が朝から大王の寝所を訪ねていた。
「大王様、中に入ってもよろしいですか?」
「入りなさい」
「はい」
ゴトゴト、ゴトゴトゆっくりと戸が開いた。
「大王様に拝謁いたします」
臣下の男は部屋へと入ると、静かに膝をついて挨拶をした。
「まだ朝食を取ったばかりだぞ、朝早くからどうしたのだ?急ぎの用か?」
大王が少し不機嫌そうに言った。
「いえ、、急用ではないのですが、その、昨夜、部下より報告がありましたので、念のため朝一番で参りましたが…また出直してまいります」
「構わぬ、せっかく来たのだから申してみよ。で?」
大王は朝食を取り終わったばかりの口を布で拭きながら言った。
「実は、昨日部下が龍王ヶ湯のあたりを見回っていた時に湯を囲む石の陰に落ちていたものがありまして…」
そう言うと臣下の男はゴソゴソと衣から手巾を取り出しくるまれていた中の指輪を見せた。
「ん?指輪?近くに持ってまいれ」
「はっ」
臣下の男は指輪と手巾を大王にそっと手渡した。
(橘の刺繍?…しかもこの指輪…)
「この指輪をどこで拾ったと?」
「はい、先日大王さまがお倒れになったあの湯でございます。大変高価な石ですし、大王さまのものかと思い、持って参りました」
「さようであったか…私の他にもあの湯に行った者がいるのでは?」
「いえ、あの日以来、石が崩れ落ちてしまい湯も濁り危険な為、立ち入りを禁じております。誰も近寄ってはないはずですが、、、」
「ふぅーん、、なるほど…ではこれは私が預かっておく。下がってよい」
「はっ」
臣下の男は丁寧に拝礼すると部屋から出て行った。
(似ている…この指輪は確かに…)
大王は暫くその指輪を眺めると、部屋の外にいる別の臣下に向け叫んだ。
「おい、誰かそこにいるか?山代王を連れてまいれ!」
「はっ」
そして、また翡翠の指輪をじっと見つめた。
トントン、トントン
「大王様、お呼びでございますか?」
山代王の声だ。
「入りなさい」
「はい」
ゴトゴトと戸が開き、山代王が部屋に入ってきた。
「大王様に拝謁いたします」
「堅苦しい挨拶はいらぬ、こちらに来なさい」
「はい」
大王は山代王を目の前に座らせると、さっそく手に握っている翡翠の指輪を見せた。
「はっ⁉︎」
指輪を見た山代王は一瞬驚いた表情を見せた。
「これは、そなたの指輪ではないのか?」
大王が優しい声で尋ねた。
「あ、兄上それをどこで⁈」
山代王の顔は若干青ざめているようにも見える。
「やはり、そなたのものであったか…いや臣下が龍王ヶ湯の側で見つけ、今朝届けにきたのだ」
「龍王ヶ湯、、」
山代王がポツリと言った。
「やはり、そなたもあの湯に行ったのだな。そなたと共に行けば転んで怪我などしなかったはず…」
大王が残念そうに言った。
「……えぇ、、」
(この指輪は確かに私のもの、いや先日燈花に渡したものだ…)
山代王は両手をギュッと膝の上で握った。
「この指輪は、そなたが母君から貰った大事な形見だろう?唯一無二の代物だぞ。二度と落とさぬように気をつけなくてはならぬぞ」
大王はそう言うと、山代王に指輪と手巾を手渡した。山代王は指輪を受け取ると静かに言った。
「はい、以後気をつけます。なんと御礼を申せば良いのか、、、」
「何をいう、そなたとは母親こそ違えど実の兄弟だ、水くさい事を申すな」
「感謝いたします」
ちょうどその時、コンコン、コンコンと部屋の戸を叩く音がし、側近の三輪が現れた。
「大王様、私です。よろしいですか?」
「どうした?」
「はい、只今橘宮より、燈花と申す女官とその侍女小彩が挨拶に参っておりますが、どうされますか?」
「そうか、丁度良かった。通しなさい」
大王が待っていたかのように興奮気味に答えた。
「では、兄上、私はこれで失礼いたします」
山代王は急かし気味に言い立ち上がった。
「何を慌てているのだ?もう少しここにいなさい」
大王はそう言うと山代王を引き留めた。
「…はい」
山代王は静かに頷くと再びその場に座った。