千燈花〜ETERNAL LOVE〜
大王邸では
コンコン、コンコン。夜遅くに戸を叩く音が聞こえた。
「兄上、もう寝られましたか?」
「ん?山代王か?入りなさい」
「はい」
ガタガタ、ガタガタ、、。
「こんな夜更けにどうしたのだ?」
蝋燭に火を灯しながら大王が聞いた。
「このような時間に申し訳ありません、どうしても兄上に至急確認したいことがあり、失礼ながらやって参りました」
「なんだ?」
「兄上は、まだあの時の侍女をお探しですか?」
「見つかったのか⁉︎」
「い、いえまだですが…もしその者が見つかりましたらどうされますか?」
大王が静かに話し始めた。
「今日、燈花が挨拶に参った時に、ふと思ったのだ…一縷の望みをかけて、あの時の侍女がこの者であれば良いのに、と…。なれど違うとわかり、正直落胆した。わかっていた事なのにやけに残念に思ってしまったのだ…」
大王は寂しそうに笑った。
「そうですか…」
「山代王よ、もう侍女を探さずとも良い。未だに名乗り出ないということは私には大して感心がないのであろう」
「…承知しました」
「さぁ、早く部屋に戻って休みなさい」
「はい、兄上、失礼いたします」
山代王は帰り道、今までにない不思議な気持ちを感じでいた。大切な友である燈花には幸せになって欲しい。大王の側室にでもなれば一生安泰で暮らせるはずだと…でも、同時に燈花を失うと思うと、胸がズキンとひどく痛んだ。明らかに複雑な感情に戸惑っていた。
翌日は、朝からとても暖かく秋晴れだった。
「燈花さま、この宮の侍女の話だとここから道沿いに東に向かって半刻ほど歩くと野原と雑木林があるそうです。今の季節だとドングリや、クルミとかの木の実が沢山拾えるそうです。中宮さまへのお土産にしませんか?」
「良い案ね!今日は風もなく暖かいし、行きましょう」
私達は急いで支度をし屋敷を出た。小道は沢山の落ち葉が積もっていて歩く度にカシャカシャと音がした。まるでふかふかの絨毯の上を歩いているようだ。しばらくすると目の前が開け林が現れた。
「燈花さま、この辺ですねきっと、ほらドングリが沢山落ちています…胡桃もありますよ!」
小彩はきゃっきゃっとはしゃぎ夢中になって木の実を拾いはじめた。
子供のようにはしゃぐ小彩の姿を見ていたら、ピクニックでも来たようで楽しかった。日差しも暖かいし最高の日だ。
私達は時間も忘れて無我夢中で木の実を拾っていた。
「燈花さま、私の籠がもう一杯です~」
小彩の籠はあっという間に沢山の木の実で一杯になった。
「欲張りね」
汗びっしょりの小彩を見て笑った。
「屋敷から林檎を持ってきたから少し休んで食べましょう」
「はい!」
林の少し離れた場所に山茶花の木が一本生えているのが見えた。花びらは全て桃色で冬の林の中で一際色鮮やかに目立っていた。
「あの山茶花の木の下で休みましょう」
「はい」
よいしょ、よいしょ、と重い籠を掲げて木の下までやってきた。
「ふぅ〜暑い!汗でびっしょりだわ」
季節は冬だがずっと歩きっぱなしだし夢中で木の実を拾っていたので、二人とも汗が吹き出ていた。近くで見る山茶花は濃い赤や薄いピンクや白も混ざっていてマーブルのような花びらをしている。可愛らしいのに、凛とした美しさもあり、冬の寒さの中に咲き誇る姿が美しかった。
「きれいね…」
「燈花さま、汗が止まらないです」
小彩はまだフーフー言い真っ赤な顔をしている。
「仕方ないわね、私の手巾を使って…」
と、衣から手巾を取り出した時だ、一瞬ビューっと風が強く吹き手巾は空高くヒラヒラと舞い上がり、そのまま山茶花の木の枝に引っ掛かった。
「あぁ、、引っ掛かってしまったわ。小彩、なにか長い枝を探してきてちょうだい」
「あっ、はい」
小彩がすぐに近くに落ちていた木の枝を見つけ持ってきた。
「これはどうですか?」
「良さそうね、貸して」
渡された枝の端を掴み、ぐっと背伸びをして手巾に向かって振り回したが、ダメだ、届かない。思ったよりも高い所にひっかかっている。
「小彩もう少し長い枝を探してきてちょうだい」
「はい、わかりました!」
次に渡された枝も、その次に渡された枝も、もう少しの所でなぜか届かない。ヤキモキしてきた私は覚悟を決めて言った。
「仕方ないわ、登ってみる」
「えっ⁉︎登るのですか⁉︎」
小彩が目を丸くして聞き返した。
「そうよ、子供の頃から木登りは得意なのよ!」
衣の袖をたくし上げながら、手前の枝を掴んだ。
「子供の頃からですか⁉︎」
小彩は、まだ驚いている。
「そうよ東国では子供はみな木に登るのよ!」
段々嘘にも箔がついてきたと思いながら必死で枝をつかんだ。丁度つかみやすい位置に枝が生えていた事もあり、わりと簡単に手巾の側まで登ることが出来た。
地上から3メートル位の高さだと思うがいざ登ってみると随分高く感じた。下を見た瞬間に足がガタガタと震え始めた。
下を見てはダメよ、あともう少し…もう少し手が伸びれば…掴んだ!
その瞬間に、体が宙に浮いた。
あぁ、、落ちる…
コンコン、コンコン。夜遅くに戸を叩く音が聞こえた。
「兄上、もう寝られましたか?」
「ん?山代王か?入りなさい」
「はい」
ガタガタ、ガタガタ、、。
「こんな夜更けにどうしたのだ?」
蝋燭に火を灯しながら大王が聞いた。
「このような時間に申し訳ありません、どうしても兄上に至急確認したいことがあり、失礼ながらやって参りました」
「なんだ?」
「兄上は、まだあの時の侍女をお探しですか?」
「見つかったのか⁉︎」
「い、いえまだですが…もしその者が見つかりましたらどうされますか?」
大王が静かに話し始めた。
「今日、燈花が挨拶に参った時に、ふと思ったのだ…一縷の望みをかけて、あの時の侍女がこの者であれば良いのに、と…。なれど違うとわかり、正直落胆した。わかっていた事なのにやけに残念に思ってしまったのだ…」
大王は寂しそうに笑った。
「そうですか…」
「山代王よ、もう侍女を探さずとも良い。未だに名乗り出ないということは私には大して感心がないのであろう」
「…承知しました」
「さぁ、早く部屋に戻って休みなさい」
「はい、兄上、失礼いたします」
山代王は帰り道、今までにない不思議な気持ちを感じでいた。大切な友である燈花には幸せになって欲しい。大王の側室にでもなれば一生安泰で暮らせるはずだと…でも、同時に燈花を失うと思うと、胸がズキンとひどく痛んだ。明らかに複雑な感情に戸惑っていた。
翌日は、朝からとても暖かく秋晴れだった。
「燈花さま、この宮の侍女の話だとここから道沿いに東に向かって半刻ほど歩くと野原と雑木林があるそうです。今の季節だとドングリや、クルミとかの木の実が沢山拾えるそうです。中宮さまへのお土産にしませんか?」
「良い案ね!今日は風もなく暖かいし、行きましょう」
私達は急いで支度をし屋敷を出た。小道は沢山の落ち葉が積もっていて歩く度にカシャカシャと音がした。まるでふかふかの絨毯の上を歩いているようだ。しばらくすると目の前が開け林が現れた。
「燈花さま、この辺ですねきっと、ほらドングリが沢山落ちています…胡桃もありますよ!」
小彩はきゃっきゃっとはしゃぎ夢中になって木の実を拾いはじめた。
子供のようにはしゃぐ小彩の姿を見ていたら、ピクニックでも来たようで楽しかった。日差しも暖かいし最高の日だ。
私達は時間も忘れて無我夢中で木の実を拾っていた。
「燈花さま、私の籠がもう一杯です~」
小彩の籠はあっという間に沢山の木の実で一杯になった。
「欲張りね」
汗びっしょりの小彩を見て笑った。
「屋敷から林檎を持ってきたから少し休んで食べましょう」
「はい!」
林の少し離れた場所に山茶花の木が一本生えているのが見えた。花びらは全て桃色で冬の林の中で一際色鮮やかに目立っていた。
「あの山茶花の木の下で休みましょう」
「はい」
よいしょ、よいしょ、と重い籠を掲げて木の下までやってきた。
「ふぅ〜暑い!汗でびっしょりだわ」
季節は冬だがずっと歩きっぱなしだし夢中で木の実を拾っていたので、二人とも汗が吹き出ていた。近くで見る山茶花は濃い赤や薄いピンクや白も混ざっていてマーブルのような花びらをしている。可愛らしいのに、凛とした美しさもあり、冬の寒さの中に咲き誇る姿が美しかった。
「きれいね…」
「燈花さま、汗が止まらないです」
小彩はまだフーフー言い真っ赤な顔をしている。
「仕方ないわね、私の手巾を使って…」
と、衣から手巾を取り出した時だ、一瞬ビューっと風が強く吹き手巾は空高くヒラヒラと舞い上がり、そのまま山茶花の木の枝に引っ掛かった。
「あぁ、、引っ掛かってしまったわ。小彩、なにか長い枝を探してきてちょうだい」
「あっ、はい」
小彩がすぐに近くに落ちていた木の枝を見つけ持ってきた。
「これはどうですか?」
「良さそうね、貸して」
渡された枝の端を掴み、ぐっと背伸びをして手巾に向かって振り回したが、ダメだ、届かない。思ったよりも高い所にひっかかっている。
「小彩もう少し長い枝を探してきてちょうだい」
「はい、わかりました!」
次に渡された枝も、その次に渡された枝も、もう少しの所でなぜか届かない。ヤキモキしてきた私は覚悟を決めて言った。
「仕方ないわ、登ってみる」
「えっ⁉︎登るのですか⁉︎」
小彩が目を丸くして聞き返した。
「そうよ、子供の頃から木登りは得意なのよ!」
衣の袖をたくし上げながら、手前の枝を掴んだ。
「子供の頃からですか⁉︎」
小彩は、まだ驚いている。
「そうよ東国では子供はみな木に登るのよ!」
段々嘘にも箔がついてきたと思いながら必死で枝をつかんだ。丁度つかみやすい位置に枝が生えていた事もあり、わりと簡単に手巾の側まで登ることが出来た。
地上から3メートル位の高さだと思うがいざ登ってみると随分高く感じた。下を見た瞬間に足がガタガタと震え始めた。
下を見てはダメよ、あともう少し…もう少し手が伸びれば…掴んだ!
その瞬間に、体が宙に浮いた。
あぁ、、落ちる…