千燈花〜ETERNAL LOVE〜
兄弟の絆
「大王さま、痛みますか?」
「なんともない、かすり傷だと申したであろう。二人とも随分遠くまで来ているぞ。さぁ、じき日が暮れる、宮に戻ろう」
「はい」
大王がピューっと口笛を鳴らすと林の奥から大王の馬がパカッパカッと大きな音をたて木々をすり抜けながら走ってきた。林の向こうに広がる野原には王妃が乗った馬車と、山代王、そして幾人かの臣下の姿も見えこちらに向かってきている。もしかしたらさきほどの出来事を見られていたかもと思うと何故か少し胸が痛んだ。
「小彩よ、そなたは王妃の馬車に乗りなさい」
大王が馬の手綱をひきながら言った。
「え?大丈夫です。歩いて帰りますので!」
「もうじき日が暮れる、すぐに真っ暗になり道に迷うぞ、獣も出るやも…」
「け、獣ですか⁉︎」
「おまえは、王妃の馬車に乗りなさい」
大王が諭すようにもう一度言うと、
「…はい。仰せのとおりに致します」
と頷きトボトボと少し離れた場所で待つ王妃の馬車に向かい歩き出した。王妃は全てを悟ったかのようににっこりしながらこちらを見ると、こちらに来なさいと手招きしている。
いち早く到着した山代王が口を開いた。
「では兄上、燈花は私の後ろに…」
山代王の話の途中だったが大王は私をひょいっと抱きかかえ馬に乗せると、自分もさっと馬にまたがった。驚いている馬をドウドウと言いながら落ち着かせると、振り向いて言った。
「さぁ、戻ろう。私の衣をつかみなさい」
「えっ⁉︎…はい」
大王の言うとおり衣の裾をぎゅっと掴むと、馬はパカパカとゆっくりと走り始めた。帰り道、野原を通りぬける風と馬の足音だけが響き、宮までの道のりがとても遠く感じた。すぐ後ろを走る山代王と大王は二人とも黙ったままだった。
宮の門を通り抜け、やっと馬から降りることができた。終始緊張していたせいか体がこわばっているし腰も痛い。大王は、
「ゆっくり休みなさい」
と言い自分の邸に帰っていった。
「燈花様~」
小彩が少し遅れて到着した。門を通り抜け王妃の馬車から降り籠一杯の木の実を抱えながら重そうに歩いてきている。急いで駆け寄り、籠を運ぶのを手伝った。
部屋にもどるやいなや、小彩は籠一杯の食料を戸口の横に放り投げ、目をキラキラさせながら私への質問攻めを開始した。
「燈花さま、帰り道大王さまと何を話されたのですか?大王様、まさか…勘づいていらっしゃるとか?」
「まさか!そんなはずないわよ、山代王さまが約束を破るとは思えないし…」
そうは答えたが帰り道、二人が一言も言葉を交わさなかった事が気がかりだ。
「それよりも、小彩王妃さまの前で失礼はなかった?」
「もちろんですよ、燈花さまよりも侍女歴は長いのですよ、でも…」
「でも?」
「王妃様、口数が少なく少し元気がないように見えました。何かお考え事をしているご様子にも見えました」
「そう…」
小彩の洞察力は若いながらに鋭い。やはり王妃さまは私と大王さまのやり取りを見ていて誤解したのだろうと思った。早急にご挨拶に伺い弁明しなくてはならない…。
「なんともない、かすり傷だと申したであろう。二人とも随分遠くまで来ているぞ。さぁ、じき日が暮れる、宮に戻ろう」
「はい」
大王がピューっと口笛を鳴らすと林の奥から大王の馬がパカッパカッと大きな音をたて木々をすり抜けながら走ってきた。林の向こうに広がる野原には王妃が乗った馬車と、山代王、そして幾人かの臣下の姿も見えこちらに向かってきている。もしかしたらさきほどの出来事を見られていたかもと思うと何故か少し胸が痛んだ。
「小彩よ、そなたは王妃の馬車に乗りなさい」
大王が馬の手綱をひきながら言った。
「え?大丈夫です。歩いて帰りますので!」
「もうじき日が暮れる、すぐに真っ暗になり道に迷うぞ、獣も出るやも…」
「け、獣ですか⁉︎」
「おまえは、王妃の馬車に乗りなさい」
大王が諭すようにもう一度言うと、
「…はい。仰せのとおりに致します」
と頷きトボトボと少し離れた場所で待つ王妃の馬車に向かい歩き出した。王妃は全てを悟ったかのようににっこりしながらこちらを見ると、こちらに来なさいと手招きしている。
いち早く到着した山代王が口を開いた。
「では兄上、燈花は私の後ろに…」
山代王の話の途中だったが大王は私をひょいっと抱きかかえ馬に乗せると、自分もさっと馬にまたがった。驚いている馬をドウドウと言いながら落ち着かせると、振り向いて言った。
「さぁ、戻ろう。私の衣をつかみなさい」
「えっ⁉︎…はい」
大王の言うとおり衣の裾をぎゅっと掴むと、馬はパカパカとゆっくりと走り始めた。帰り道、野原を通りぬける風と馬の足音だけが響き、宮までの道のりがとても遠く感じた。すぐ後ろを走る山代王と大王は二人とも黙ったままだった。
宮の門を通り抜け、やっと馬から降りることができた。終始緊張していたせいか体がこわばっているし腰も痛い。大王は、
「ゆっくり休みなさい」
と言い自分の邸に帰っていった。
「燈花様~」
小彩が少し遅れて到着した。門を通り抜け王妃の馬車から降り籠一杯の木の実を抱えながら重そうに歩いてきている。急いで駆け寄り、籠を運ぶのを手伝った。
部屋にもどるやいなや、小彩は籠一杯の食料を戸口の横に放り投げ、目をキラキラさせながら私への質問攻めを開始した。
「燈花さま、帰り道大王さまと何を話されたのですか?大王様、まさか…勘づいていらっしゃるとか?」
「まさか!そんなはずないわよ、山代王さまが約束を破るとは思えないし…」
そうは答えたが帰り道、二人が一言も言葉を交わさなかった事が気がかりだ。
「それよりも、小彩王妃さまの前で失礼はなかった?」
「もちろんですよ、燈花さまよりも侍女歴は長いのですよ、でも…」
「でも?」
「王妃様、口数が少なく少し元気がないように見えました。何かお考え事をしているご様子にも見えました」
「そう…」
小彩の洞察力は若いながらに鋭い。やはり王妃さまは私と大王さまのやり取りを見ていて誤解したのだろうと思った。早急にご挨拶に伺い弁明しなくてはならない…。