千燈花〜ETERNAL LOVE〜
深田池のほとりで
ガサガサ、ガサガサ
耳元で乾いた草を踏む音が聞こえる。二人の男が不思議そうに覗き込んでいる。
「誰であろうか?」
「なんだかあやしい女です、放っておきましょう」
「待て、この女の上着の袖を見てみろ…中宮様の紋章が刺繍されているぞ」
「ま、まことですか⁉︎まことであれば大変だ小墾田宮に運びましょうか?」
「いや、待て…この灯籠にも刻印が…橘宮の印だ。ちょうど六鯨様が畝傍山の倉に居るから呼んでこい!」
「はっ、はい!」
若い方の男が畝傍山にめがけ駆け出し、しばらくして六鯨を連れて戻ってきた。六鯨は足をもたつかせながら手前で立ち止まると、ふぅふぅ言いながら大汗をぬぐっている。
「六鯨様、こちらです!見てください」
待っていた男がこっちだと手招きしている。
「なっ、なんと驚いたことか!燈花様ではないか!」
六鯨はその場で大声を上げのけぞったあと早口で言った。
「果安よ、急ぎこの方を橘宮にお運びしなさい!慎重にな。あと、朝倉に出向き急ぎ小彩を呼んできてくれ」
「はっ、はい」
翌日の昼前、橘宮に小彩が到着した。
六鯨が小彩を急かすように屋敷の中へと案内している。
「小彩よ、よく来てくれたな、見てくれ」
六鯨が腫れものでもさわるかのように、部屋の戸をゆっくり開けた。部屋の中に入るとすぐに小彩の顔色が変わった。
「ま、まさか燈花様⁉︎︎本当に燈花様にございますか?」
小彩は信じられないというように口を大きく開け驚いている。
「そうなのだ。どう見ても燈花様であろう?しかも中宮様の紋章入りの上着を着ているのだから間違いないはずだ」
「なれど、なぜ今…六鯨様、燈花様のご容態は?」
「いや、私にも何がなんだかわからぬのだ。昨日、深田池の畔で倒れているのが見つかり、宮まで運んだのだ。脈も呼吸も正常だがなぜか目を覚まさぬ…」
「な、なんと…燈花様、どうかお目覚め下さい。小彩が参りました…」
すすり泣く小彩の声が耳元で聞こえる。二人の会話を夢の中でぼんやりと聞いていた。なんとなく意識はあるが瞼が異常に重く目が開かない…醒めない麻酔を打たれている気分だ。そして再び深い眠りについてしまった。
また夢を見ている…
中宮様…一体誰の事を案じていらっしゃるのですか?…私はいったい、何をすれば良いのですか?…行かないで中宮様!!…
深い深呼吸を一つして目を開けた。いつもの見慣れた天井がぼんやりと見える。
…夢か、喉が乾いたわ…
「誰か…誰か…」
声を振り絞り言った。
「燈花様!お気づきですか?私でございます!!」
誰かが手を握ってくれている…温かい手だ…
「…その声は…小彩?」
「さようでございます。小彩でございます!」
いつのまに橘宮に戻ったのだろうか…記憶が全くない。でも小彩の声を聞き安心していた。
「…喉が乾いたわ…お水をくれる?」
「はい、すぐにお持ちいたします!」
いつものようにバタバタっと小彩が部屋から出て行った。あぁ…まだ頭がクラクラする…視界もぼんやりしているし…
すぐに小彩は部屋に戻ってきた。
「燈花様、お水をお持ちしました。起き上がれますか?」
「…体が動かないわ…」
そう言うと、さじを使い水を口に運んでくれた。冷たい水が一気に喉を潤し体中に沁み渡った。
耳元で乾いた草を踏む音が聞こえる。二人の男が不思議そうに覗き込んでいる。
「誰であろうか?」
「なんだかあやしい女です、放っておきましょう」
「待て、この女の上着の袖を見てみろ…中宮様の紋章が刺繍されているぞ」
「ま、まことですか⁉︎まことであれば大変だ小墾田宮に運びましょうか?」
「いや、待て…この灯籠にも刻印が…橘宮の印だ。ちょうど六鯨様が畝傍山の倉に居るから呼んでこい!」
「はっ、はい!」
若い方の男が畝傍山にめがけ駆け出し、しばらくして六鯨を連れて戻ってきた。六鯨は足をもたつかせながら手前で立ち止まると、ふぅふぅ言いながら大汗をぬぐっている。
「六鯨様、こちらです!見てください」
待っていた男がこっちだと手招きしている。
「なっ、なんと驚いたことか!燈花様ではないか!」
六鯨はその場で大声を上げのけぞったあと早口で言った。
「果安よ、急ぎこの方を橘宮にお運びしなさい!慎重にな。あと、朝倉に出向き急ぎ小彩を呼んできてくれ」
「はっ、はい」
翌日の昼前、橘宮に小彩が到着した。
六鯨が小彩を急かすように屋敷の中へと案内している。
「小彩よ、よく来てくれたな、見てくれ」
六鯨が腫れものでもさわるかのように、部屋の戸をゆっくり開けた。部屋の中に入るとすぐに小彩の顔色が変わった。
「ま、まさか燈花様⁉︎︎本当に燈花様にございますか?」
小彩は信じられないというように口を大きく開け驚いている。
「そうなのだ。どう見ても燈花様であろう?しかも中宮様の紋章入りの上着を着ているのだから間違いないはずだ」
「なれど、なぜ今…六鯨様、燈花様のご容態は?」
「いや、私にも何がなんだかわからぬのだ。昨日、深田池の畔で倒れているのが見つかり、宮まで運んだのだ。脈も呼吸も正常だがなぜか目を覚まさぬ…」
「な、なんと…燈花様、どうかお目覚め下さい。小彩が参りました…」
すすり泣く小彩の声が耳元で聞こえる。二人の会話を夢の中でぼんやりと聞いていた。なんとなく意識はあるが瞼が異常に重く目が開かない…醒めない麻酔を打たれている気分だ。そして再び深い眠りについてしまった。
また夢を見ている…
中宮様…一体誰の事を案じていらっしゃるのですか?…私はいったい、何をすれば良いのですか?…行かないで中宮様!!…
深い深呼吸を一つして目を開けた。いつもの見慣れた天井がぼんやりと見える。
…夢か、喉が乾いたわ…
「誰か…誰か…」
声を振り絞り言った。
「燈花様!お気づきですか?私でございます!!」
誰かが手を握ってくれている…温かい手だ…
「…その声は…小彩?」
「さようでございます。小彩でございます!」
いつのまに橘宮に戻ったのだろうか…記憶が全くない。でも小彩の声を聞き安心していた。
「…喉が乾いたわ…お水をくれる?」
「はい、すぐにお持ちいたします!」
いつものようにバタバタっと小彩が部屋から出て行った。あぁ…まだ頭がクラクラする…視界もぼんやりしているし…
すぐに小彩は部屋に戻ってきた。
「燈花様、お水をお持ちしました。起き上がれますか?」
「…体が動かないわ…」
そう言うと、さじを使い水を口に運んでくれた。冷たい水が一気に喉を潤し体中に沁み渡った。