千燈花〜ETERNAL LOVE〜
「なんて美しい夜なの!!はぁ…」
やけなのか解放感からなのかわからないが、大声で叫び目を閉じた。ガサッガサッと足音が聞こえぴたりと耳元で止まった。
「そなた…なぜ、ここにいる?」
男の声だ…。目をうっすら開けると暗がりの中に見覚えのある顔が見えた。
あれっ、誰だっけ…えっと…
「そなた、人の敷地で勝手に寝転がっているのか?」
思い出した…嫌な奴だ…
ガバッっと起き上がりよく目を凝らして見ると、目の前に立派な男の姿をした林臣太郎がこちらを見ていた。
「あれ⁉︎…大人の入鹿…でなくて蘇我入鹿…」
自分でも何を言っているのか理解できない。ろれつの回らない私を察したのか、林臣がいつもの冷ややかな口調で言った。
「酒の匂いがすごいな。どれだけ飲んだのだ?」
「少しだけ…ほんの、すこ~し…アハハハハ」
林臣はしかめ面をしたが、不思議と怖くはなく、むしろ可笑しくなりケラケラと笑った。
「女子がこれほどまでに酔うとは、恥じらいはないのか?」
「いえ、全然酔っぱらってなどいませ~ん…あまりにも良い夜で……美しい琴の音が…あれ、聞こえない…」
「全く愚かな奴だ、ふん」
林臣はそう言うと琴を持ち上げ林の中へと消えて行った。彼の後ろ姿を見ながら思った。
相変わらず冷たい奴…あれって琴?…まぁどうでもいいわ…
林臣が去ると再びその場に寝転がった。辺りはすっかり暗くなっている。何時かもわからない。冷えた夜の空気が気持ちいい。でもそろそろ帰らないと、こんな野外で一夜は過ごせない…。そう思いなんとか起き上がったものの木の根につまずき豪快に前へと転んだ。目の前には池が広がり、水面は月明かりに照らされキラキラと光っている。
池…?危なかった……もう一度起き上がって…あれ?おかしいわね…なぜ、立てないのかしら…
なんとか立ち上がったものの足の感覚がない。そのままよろよろと池の水面めがけて倒れ込んだ。
その時だ、誰かに腕を強くつかまれ池の淵へと引き戻された。
えっ…?
「死ぬのなら、別の池でしろ」
腕の中で声が聞こえた…見上げると、林臣が冷淡な眼差しで見ている。
…戻ってきた…
林臣はそのままひょいっと私を担ぎ上げると背に乗せ林の中を歩き始めた。いわゆるおんぶだ。
「思ったより重いな…」
背中からかすかに花の香りが漂ってきた…桃の香り…。
林臣は黙ったまま何も話さない。暗い夜道をモクモクと歩くだけだ。
あ~いい気分…。私は彼に背負われながら、のんきにそんな風に思っていた。
途中、夜空の三日月を指さし言った。
「林臣様、あの月まで行けると思いますか?」
「……」
当然彼は何も答えない。私はなぜかこのタイミングで気が大きくなった。
「林臣様には特別に秘密を教えて差し上げましょう…私は、この世界の人間ではないのです…フフッ…」
「フン、酔っ払いが…」
林臣が相変わらずの冷たい口調で言った。
「では、ついでに…あなたの名は入鹿…蘇我入鹿…天下の大悪党、無慈悲で冷酷な男。千年たっても子々孫々にいたるまでこの国の歴史書に名が残る…。でも…もし…もし私が元の世界に戻れたら皆を説得してもいいわ…そんなに悪い人間でもなかったと…ハハッ…」
「戯けを…」
ピューと優しい春の夜風が横を通り過ぎた。
「はぁ、眠い…このまま消えて…忘れたい…山代王様…」
溢れた涙が頬を流れ林臣の肩に伝わった。
(泥酔の原因か…)
橘宮の東門の前では松明をもった小彩と六鯨の姿があった。二人は私達の姿に気づくと大慌てで飛んできた。
「これは、なんと、林臣様!!」
小彩と六鯨は腰を抜かしたように驚いたあと深く頭を下げた。
「この者の部屋はどこだ?」
「へっ?」
二人は目を丸くし互いを見合った。
「良いから、早く案内しろ!」
「はっ、はい!」
林臣は私を部屋に運び入れると、ふう~っと肩を大きく回し部屋から出ていった。その様子を宮の皆が信じられないという表情でひっそりと物陰から見ていた。
「林臣様、なんとお礼を申し上げればよいのか…」
門の前で六鯨が深々と頭を下げた。
「フン、うちの敷地内で死なれたら困るからな。それと、あの者の足首だが折れているぞ。安静にさせて見張っておけ」
「はっ、はい此度は助けていただき誠にありがとうございました」
六鯨が再びお礼を言い顔を上げた時には、もう林臣の姿はなかった。
やけなのか解放感からなのかわからないが、大声で叫び目を閉じた。ガサッガサッと足音が聞こえぴたりと耳元で止まった。
「そなた…なぜ、ここにいる?」
男の声だ…。目をうっすら開けると暗がりの中に見覚えのある顔が見えた。
あれっ、誰だっけ…えっと…
「そなた、人の敷地で勝手に寝転がっているのか?」
思い出した…嫌な奴だ…
ガバッっと起き上がりよく目を凝らして見ると、目の前に立派な男の姿をした林臣太郎がこちらを見ていた。
「あれ⁉︎…大人の入鹿…でなくて蘇我入鹿…」
自分でも何を言っているのか理解できない。ろれつの回らない私を察したのか、林臣がいつもの冷ややかな口調で言った。
「酒の匂いがすごいな。どれだけ飲んだのだ?」
「少しだけ…ほんの、すこ~し…アハハハハ」
林臣はしかめ面をしたが、不思議と怖くはなく、むしろ可笑しくなりケラケラと笑った。
「女子がこれほどまでに酔うとは、恥じらいはないのか?」
「いえ、全然酔っぱらってなどいませ~ん…あまりにも良い夜で……美しい琴の音が…あれ、聞こえない…」
「全く愚かな奴だ、ふん」
林臣はそう言うと琴を持ち上げ林の中へと消えて行った。彼の後ろ姿を見ながら思った。
相変わらず冷たい奴…あれって琴?…まぁどうでもいいわ…
林臣が去ると再びその場に寝転がった。辺りはすっかり暗くなっている。何時かもわからない。冷えた夜の空気が気持ちいい。でもそろそろ帰らないと、こんな野外で一夜は過ごせない…。そう思いなんとか起き上がったものの木の根につまずき豪快に前へと転んだ。目の前には池が広がり、水面は月明かりに照らされキラキラと光っている。
池…?危なかった……もう一度起き上がって…あれ?おかしいわね…なぜ、立てないのかしら…
なんとか立ち上がったものの足の感覚がない。そのままよろよろと池の水面めがけて倒れ込んだ。
その時だ、誰かに腕を強くつかまれ池の淵へと引き戻された。
えっ…?
「死ぬのなら、別の池でしろ」
腕の中で声が聞こえた…見上げると、林臣が冷淡な眼差しで見ている。
…戻ってきた…
林臣はそのままひょいっと私を担ぎ上げると背に乗せ林の中を歩き始めた。いわゆるおんぶだ。
「思ったより重いな…」
背中からかすかに花の香りが漂ってきた…桃の香り…。
林臣は黙ったまま何も話さない。暗い夜道をモクモクと歩くだけだ。
あ~いい気分…。私は彼に背負われながら、のんきにそんな風に思っていた。
途中、夜空の三日月を指さし言った。
「林臣様、あの月まで行けると思いますか?」
「……」
当然彼は何も答えない。私はなぜかこのタイミングで気が大きくなった。
「林臣様には特別に秘密を教えて差し上げましょう…私は、この世界の人間ではないのです…フフッ…」
「フン、酔っ払いが…」
林臣が相変わらずの冷たい口調で言った。
「では、ついでに…あなたの名は入鹿…蘇我入鹿…天下の大悪党、無慈悲で冷酷な男。千年たっても子々孫々にいたるまでこの国の歴史書に名が残る…。でも…もし…もし私が元の世界に戻れたら皆を説得してもいいわ…そんなに悪い人間でもなかったと…ハハッ…」
「戯けを…」
ピューと優しい春の夜風が横を通り過ぎた。
「はぁ、眠い…このまま消えて…忘れたい…山代王様…」
溢れた涙が頬を流れ林臣の肩に伝わった。
(泥酔の原因か…)
橘宮の東門の前では松明をもった小彩と六鯨の姿があった。二人は私達の姿に気づくと大慌てで飛んできた。
「これは、なんと、林臣様!!」
小彩と六鯨は腰を抜かしたように驚いたあと深く頭を下げた。
「この者の部屋はどこだ?」
「へっ?」
二人は目を丸くし互いを見合った。
「良いから、早く案内しろ!」
「はっ、はい!」
林臣は私を部屋に運び入れると、ふう~っと肩を大きく回し部屋から出ていった。その様子を宮の皆が信じられないという表情でひっそりと物陰から見ていた。
「林臣様、なんとお礼を申し上げればよいのか…」
門の前で六鯨が深々と頭を下げた。
「フン、うちの敷地内で死なれたら困るからな。それと、あの者の足首だが折れているぞ。安静にさせて見張っておけ」
「はっ、はい此度は助けていただき誠にありがとうございました」
六鯨が再びお礼を言い顔を上げた時には、もう林臣の姿はなかった。