千燈花〜ETERNAL LOVE〜
 ふ~もう夏ね、陽ざしが眩しい…。

 ドンドン、ドンドン

 「誰かいるか」

 東門の戸を誰かが叩いている。珍しい…客人だろうか…門番の漢人(あやひと)が奥の納屋から走ってきて急いで門を開けた。

 「あっ、これは林臣(りんしん)様」

 「燈花(とうか)はいるか?」

 「あ、はい」

 「入るぞ」

 「えっ?は、はい…」

 漢人(あやひと)があたふたしている間に、林臣(りんしん)が敷地の中へと入ってきた。

 シャリシャリと小石を踏む音が聞こえる。振り返るとそこには、久しぶりに見る林臣(りんしん)が立っていた。

 「り、り、林臣(りんしん)様!」

 予想だにしなかった人物の登場に驚き飛び上がった。挨拶も忘れ林臣(りんしん)がゆっくりと近づいてくるのを黙って見ていた。林臣(りんしん)は東屋から少し離れた所に置かれた別の石の上に静かに座った。

 ど、どうしよう…なんの弁解の言葉も出てこない…

 「怪我はどうだ」

 相変わらず不愛想な声だ。でも、ちゃんとお礼をしないと…

 「は、はい。すっかり良くなりました…その、あ、ありがとうございました」

 気が動転しているせいか、おどおどとした奇妙な口調になった。

 「ん?」

 林臣(りんしん)が怪訝そうにこちらを見た。あの夜の事は記憶にないが、もし自分が暴言を吐いていたかと思うと生きた心地がしない。握りしめた手のひらが汗ばんでいる。とにかく謝らないと…

 背筋をピンと伸ばし林臣(りんしん)の方を向き言った。

 「…酔っていたとはいえ、林臣(りんしん)様に多大なご迷惑をおかけしてしまい申し訳…」

 「で…もう歩けるのか?」

 「え?あ、はい…」

 「では、明日の夜明け寅の刻にあの池にまいれ」

 「えっ?」

 林臣(りんしん)はそう一言いい残すとすたすたとその場を去った。

 訳がわからない…呆然とその場に立ちすくんだ。東屋から馬にまたがり颯爽と都に向かう林臣(りんしん)の後ろ姿が見えた。

 困った…どうしよう…とにかく小彩(こさ)に話さないと…。急いで厨房に行き、調理中の忙しい彼女をつかまえた。

 「まことですか⁈林臣(りんしん)様がおいでになられたのですか?」

 「そうなの、さっきお見えになって怪我の事を聞かれたのだけど…明日の夜明けの寅の刻にまた嶋宮(しまのみや)に来いって…」

 「えっ、なんの為ですか⁉︎」

 「そんな事知らないわよ、私が聞きたいわ」

  ムスッとして答えた。

 「さ、さようですか…。理由はわかりませんが一度向かわれてはいかがですか?」

 小彩(こさ)がまるで他人事のようにさらりと言った。

 「そ、そんな…まさか私、殺されないわよね?」

 「そんな事するはずありません。その気ならとっくに私も燈花(とうか)様ももうこの世におりません…」

 小彩(こさ)が伏し目がちに答えた。確かにその通りだ。林臣(りんしん)と最初に出会った時の事を思い出していた。

 「そうね…けどこの間の私の失態を許せぬのかも…」

 「燈花(とうか)様考えすぎですよ、林臣(りんしん)様はああ見えて大変賢いお方です。ご自身の屋敷で人を殺めたりはしないはずです」

 「そうね…とりあえず行ってみるか…」

 気乗りはしなかったがきっとこちらに拒否権などないだろうし、なんとなく危険な目には合わない気がして覚悟を決めた。

 「燈花(とうか)様、私も屋敷の前までお供いたします」

 「ありがとう…」

 ため息混じりに言った。
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