千燈花〜ETERNAL LOVE〜
鳥の鳴き声も虫の音も聞こえないひっそりと静まりかえった夜だ。小彩が目をこすりながら部屋の中へと入ってきた。
「燈花様、起きてください。もう丑の刻を過ぎていますよ…ふわぁぁ…起きてください」
小彩は大きなあくびを手で押さえながら何度も私の体をゆすった。
「う~ん、起きる。起きるから…」
適当に言ったものの、まだまだ夢の中にいたい…
「燈花様、林臣様がお待ちなのでは?…」
り、林臣?…ハッっと勢いよく起き上がった。そうだった…嶋宮に行かないと…
急ぎ支度を済ませ手持ちの小さな灯籠に灯りをつけ部屋の外に出た。あたりはまだ暗く静寂な空気に包まれシーンとしている。東門に着くとすぐに前方の暗闇の中に小さな灯りが見え、馬のひずめの音が聞こえてきた。馬は東門付近にくるとスピードを落としゆっくり止まった。一人の若い男が松明を片手に馬から降りてきた。
「燈花様、ご無沙汰しております。猪手でございます。覚えておいでですか?」
林臣の側近の男だ。以前小墾田宮で会った時、主君の為に薬を取りに戻ってきた忠実で信頼できる臣下だ。
「もちろん覚えてるわ」
「良かった、怪しいものだと思われなくて。どうぞこの馬に乗って下さい。若様のところまでお連れいたします」
「林臣様が?」
「はい」
「わかったわ。小彩この先は猪手さんと一緒に行くから大丈夫よ」
「承知しました。気を付けてください」
パカパカという馬のひずめの音と飛鳥川のゴボゴボと水が流れる音だけが響いている。夜空には満点の星がキラキラと輝いていた。
嶋宮の入り口まで来て馬を降りると、林の奥に小さな灯籠が連なっているのが見えた。
「燈花様、あちらの灯りを目指して進んで下さい。木の根が張っていますので足元に気を付けて下さい」
「ありがとう」
小さな灯籠を右手に持ち直しゆっくりと歩き出した。桃の木の根元に小さな灯籠が置かれている。中の火は風に吹かれゆらゆらと揺れ今にも消えそうだ。あたりに人影はない。
林臣様は本当にいるのだろうか…。最後の灯籠の前を通りすぎると目の前に池が広がった。水面に映った月がゆらゆらと揺れている。以前にあやうく落ちそうになった池だ。
「遅いぞ」
足元の方から急に声がした。
「ひゃゃあ!」
大声で叫んだ。辺りは真っ暗で小さな灯籠をかざしても何も見えない。
「り…林臣さまですか…?」
「さようだ」
声の方を見ると池の岸にくくりつけてある小さな船のような乗り物から林臣が眠そうな顔をのぞかせた。
「乗れ」
「えっ?そこにですか?」
「二人乗っても沈まぬ、早く乗れ」
「は、はい…」
なんとか小舟に乗りこんだがグラグラとしていて今にも沈みそうで怖かった。舟の端をしっかりつかむと林臣ゆっくりと池の中央に向けて漕ぎ出した。
「燈花様、起きてください。もう丑の刻を過ぎていますよ…ふわぁぁ…起きてください」
小彩は大きなあくびを手で押さえながら何度も私の体をゆすった。
「う~ん、起きる。起きるから…」
適当に言ったものの、まだまだ夢の中にいたい…
「燈花様、林臣様がお待ちなのでは?…」
り、林臣?…ハッっと勢いよく起き上がった。そうだった…嶋宮に行かないと…
急ぎ支度を済ませ手持ちの小さな灯籠に灯りをつけ部屋の外に出た。あたりはまだ暗く静寂な空気に包まれシーンとしている。東門に着くとすぐに前方の暗闇の中に小さな灯りが見え、馬のひずめの音が聞こえてきた。馬は東門付近にくるとスピードを落としゆっくり止まった。一人の若い男が松明を片手に馬から降りてきた。
「燈花様、ご無沙汰しております。猪手でございます。覚えておいでですか?」
林臣の側近の男だ。以前小墾田宮で会った時、主君の為に薬を取りに戻ってきた忠実で信頼できる臣下だ。
「もちろん覚えてるわ」
「良かった、怪しいものだと思われなくて。どうぞこの馬に乗って下さい。若様のところまでお連れいたします」
「林臣様が?」
「はい」
「わかったわ。小彩この先は猪手さんと一緒に行くから大丈夫よ」
「承知しました。気を付けてください」
パカパカという馬のひずめの音と飛鳥川のゴボゴボと水が流れる音だけが響いている。夜空には満点の星がキラキラと輝いていた。
嶋宮の入り口まで来て馬を降りると、林の奥に小さな灯籠が連なっているのが見えた。
「燈花様、あちらの灯りを目指して進んで下さい。木の根が張っていますので足元に気を付けて下さい」
「ありがとう」
小さな灯籠を右手に持ち直しゆっくりと歩き出した。桃の木の根元に小さな灯籠が置かれている。中の火は風に吹かれゆらゆらと揺れ今にも消えそうだ。あたりに人影はない。
林臣様は本当にいるのだろうか…。最後の灯籠の前を通りすぎると目の前に池が広がった。水面に映った月がゆらゆらと揺れている。以前にあやうく落ちそうになった池だ。
「遅いぞ」
足元の方から急に声がした。
「ひゃゃあ!」
大声で叫んだ。辺りは真っ暗で小さな灯籠をかざしても何も見えない。
「り…林臣さまですか…?」
「さようだ」
声の方を見ると池の岸にくくりつけてある小さな船のような乗り物から林臣が眠そうな顔をのぞかせた。
「乗れ」
「えっ?そこにですか?」
「二人乗っても沈まぬ、早く乗れ」
「は、はい…」
なんとか小舟に乗りこんだがグラグラとしていて今にも沈みそうで怖かった。舟の端をしっかりつかむと林臣ゆっくりと池の中央に向けて漕ぎ出した。