千燈花〜ETERNAL LOVE〜
運命の糸
山代王邸にて
「山代王様、私でございます」
「あぁ、来たか。入りなさい」
冬韻が静かに部屋の戸を開いた。明るい陽射しの中で山代王を囲むように王妃の紅衣と側室の白蘭が座り談笑しながら茶を飲んでいる。
「王妃様と白蘭様がお越しになられていたのですね。では、また後程出直してまいります」
冬韻が開けた戸を閉めようとすると山代王が口早に言った。
「待ちなさい。そう急ぐでない。わざわざそなたを呼んだのは他でもない、早急に礼を伝えたかったからだ」
「えっ?」
冬韻は目を大きくしてぽかんと口を開けた。その様子を見て王妃と白蘭は目を合わせてクスクスと笑い出した。山代王が二人に止めなさいというように手を振った。
「実は先日そなたが、大唐より取り寄せてくれた煎じ薬が白蘭の体によく合ってな、この通り無事回復したのだ」
山代王の隣でにっこりと微笑む白蘭はすっかり顔色も良くなり、少しふっくらしたようにも見える。
「さようでございますか、良かった。もう食事は取ることが出来ますか?」
冬韻は安堵の表情を浮かべると白蘭に尋ねた。
「えぇ。そなたの煎じ薬のおかげでつわりもだいぶ治まり、粥も少しずつ取れるようになりました。今では食べ過ぎてしまう位です」
白蘭はそう言うと愛おしそうにお腹をさすりながら山代王を見て微笑んだ。冬韻は二人の仲睦まじい姿を見て再び安堵し胸をなでおろした。
「しかし、そなたに生薬の知識があったとは知らなかったぞ」
「はい、実は先日大唐より帰国されました高向玄理先生にお会いする機会がございましたので、なにか妙案はないかと伺ったのです」
冬韻が少し照れたように答えた。
「さようであったか、さすが先生は博識であるな、国博士になる日も近いであろう。先進の大唐からの情報は非常に役立つものばかりである。学ぶべきことも多い。さすが、大国であるな」
「はい」
冬韻が静かに頷いた。
「あっ」
白蘭がお腹を押さえて甲高い声を出した。
「どうしたのだ⁈」
「今、初めて赤子がお腹を蹴ったような気がしたのです」
白蘭が目をパチパチとさせながら驚いた表情で言った。
「誠か⁈なんと喜ばしいことだ、男児かもしれぬぞ。我らの話を聞きすぐにでもこの世に誕生したいのかも」
「王様なんと気が早いことを」
王妃が少し呆れたように言い笑った。
「話は変わるが、田村皇子様のご容態はどうであろうか?」
山代王が冬韻に尋ねた。
「はい、朝廷の医官の話によると容態は今も尚、思わしくないそうです。近く宝皇女様を筆頭に百済大寺で病気回復の祈願祭を執り行うそうです」
「さようか、我々も協力せねばな。手抜かりがないよう入念に準備をしてくれ」
「承知いたしました」
冬韻が頭を下げた。
「山代王様、私でございます」
「あぁ、来たか。入りなさい」
冬韻が静かに部屋の戸を開いた。明るい陽射しの中で山代王を囲むように王妃の紅衣と側室の白蘭が座り談笑しながら茶を飲んでいる。
「王妃様と白蘭様がお越しになられていたのですね。では、また後程出直してまいります」
冬韻が開けた戸を閉めようとすると山代王が口早に言った。
「待ちなさい。そう急ぐでない。わざわざそなたを呼んだのは他でもない、早急に礼を伝えたかったからだ」
「えっ?」
冬韻は目を大きくしてぽかんと口を開けた。その様子を見て王妃と白蘭は目を合わせてクスクスと笑い出した。山代王が二人に止めなさいというように手を振った。
「実は先日そなたが、大唐より取り寄せてくれた煎じ薬が白蘭の体によく合ってな、この通り無事回復したのだ」
山代王の隣でにっこりと微笑む白蘭はすっかり顔色も良くなり、少しふっくらしたようにも見える。
「さようでございますか、良かった。もう食事は取ることが出来ますか?」
冬韻は安堵の表情を浮かべると白蘭に尋ねた。
「えぇ。そなたの煎じ薬のおかげでつわりもだいぶ治まり、粥も少しずつ取れるようになりました。今では食べ過ぎてしまう位です」
白蘭はそう言うと愛おしそうにお腹をさすりながら山代王を見て微笑んだ。冬韻は二人の仲睦まじい姿を見て再び安堵し胸をなでおろした。
「しかし、そなたに生薬の知識があったとは知らなかったぞ」
「はい、実は先日大唐より帰国されました高向玄理先生にお会いする機会がございましたので、なにか妙案はないかと伺ったのです」
冬韻が少し照れたように答えた。
「さようであったか、さすが先生は博識であるな、国博士になる日も近いであろう。先進の大唐からの情報は非常に役立つものばかりである。学ぶべきことも多い。さすが、大国であるな」
「はい」
冬韻が静かに頷いた。
「あっ」
白蘭がお腹を押さえて甲高い声を出した。
「どうしたのだ⁈」
「今、初めて赤子がお腹を蹴ったような気がしたのです」
白蘭が目をパチパチとさせながら驚いた表情で言った。
「誠か⁈なんと喜ばしいことだ、男児かもしれぬぞ。我らの話を聞きすぐにでもこの世に誕生したいのかも」
「王様なんと気が早いことを」
王妃が少し呆れたように言い笑った。
「話は変わるが、田村皇子様のご容態はどうであろうか?」
山代王が冬韻に尋ねた。
「はい、朝廷の医官の話によると容態は今も尚、思わしくないそうです。近く宝皇女様を筆頭に百済大寺で病気回復の祈願祭を執り行うそうです」
「さようか、我々も協力せねばな。手抜かりがないよう入念に準備をしてくれ」
「承知いたしました」
冬韻が頭を下げた。