もう一度、君に恋する方法
だけど、こんな時間は永遠には続かない。
これでハッピーエンドに終わってくれたらよかったけど、この話には、まだ続きがある。
私が先輩に思いを告げた直後、楽器庫の扉の方では拍手が沸いた。そこにいたのは、優子や河瀬先輩をはじめとする部員たちだった。
「おめでとう、さやちゃん。俺、本当に心配で、勉強も手につかなくて、浪人に……」
そう泣きながら私に抱き着こうとする河瀬先輩を、涙を浮かべながらやってきた優子が首根っこをつかんで引き下げた。
「ほんと、早矢香よかったね」
「あ、ありがとう。……って、なんでいるの?」
「式が終わった後、水野先輩が私たちのところに颯爽と現れて、『告白したいんだけど、柏木さん知らない?』なんてしれっと聞くからさあ……。そりゃこんな面白いこと見逃すわけにはいかないじゃん」
「先輩カッコよすぎ」ときゅんとした表情を見せる優子の横で、私は先輩をぎろりとにらみつけた。
そんな私をよそに、先輩は思い実ったからか、ほくほくとした顔で微笑んでいる。
「みんなドキドキしながら待ってたんだから」
「みんな?」
武道場の外に出ると、部員全員がそこにいた。そして、私たちを拍手で迎えた。
「なんでみんな……」
優子を見ると、スマホをフリフリとしながらにっと笑った。
呆れてため息が漏れる。
「それにしてもほんとよかったな。もう浩介のさやちゃんを見つめる目が熱すぎて、火傷するかと思ったよ。どこぞの男子がさやちゃんに近づくたびに、すごい不機嫌になるしさ、目つき恐いし。なぜか俺が八つ当たりされるし。この半年、浩介の隣は生きた心地がしなかったよ」
思い出を語るときに泣き震える人を、私は初めて見たかもしれない。
「でも、さやちゃんもよかったね」
河瀬先輩は相変わらず涙を流しながら、だけど今度は穏やかに言った。
泣くほど喜んでくれる河瀬先輩に、過去の過ちは水に流してやろうと大きな心で微笑みを返そうとした。
「先輩にもご心配をおかけしました。いろいろありがとうございます。浪人生、頑張ってください……」、そんな労いとも慰めともとれる言葉をかけようと思った。
河瀬先輩の、次の言葉を聞くまでは。
「それなのに……、気持ちが通じ合ったのに、もう離れて暮らすなんて、残酷だよな」
__……え?
河瀬先輩が何を言っているのかわからなかった。
「でも、浩介とさやちゃんならきっと大丈夫」
そう言いながら、河瀬先輩は私の肩を抱く。
「きっと大丈夫だよ、遠距離恋愛なんて」
「……えんきょり、れんあい?」
「触んなよ」と水野先輩にとがめられて、河瀬先輩は私からぐいとはがされる。
そのやりとりが、遠くの方で聞こえる。
突然スピーカーから鳴り響く、音割れの激しい呼び出し音が、私の頭をガツンと殴っていく。
『吹奏楽部、至急体育館に集合。速やかに楽器の撤収作業を行いなさい』
その放送に、私たちを取り囲んでいた部員たちが、波が引くようにさあっと消えていった。