もう一度、君に恋する方法
3、茶色の紙袋
高校生なんて気楽なもんだ。
その場の空気に流されて、いくらでも恋ができてしまうんだから。普通に考えたら、まだ付き合ってもいない相手に「お嫁さんにならない?」なんて、そんな告白、タチの悪いナンパと同じだ。それを、まんざらでもなく受け入れてしまう当時の私も私だけど。
まあしょうがない。初めての人と添い遂げるのを理想としていた高校生の私にとって、初めて彼氏となる人が、結婚まで約束してくれたのだ。そんな憧れのシチュエーションに、酔いしれないわけがない。
だけど、私たちは漫画やドラマの中で生きているわけではない。
夢の中で生きているわけではない。
理想だけで、家事も子育てもできない。
現実とは、そういうものだ。
あの頃はまだ高校生だった。まだ子供だった。わからなくて当然。こんな未来が見えているわけがない。想像すらできなかった。
私に見えていたのは、目の前にいる、大好きな人だけ。
青春っていいな。美しいな。まぶしいな。
楽しいことも嬉しいことも、辛かったことも大変だったことも、全部がキラキラと輝く思い出になるんだから。
私は指先で弄んでいた「水野」と書かれた名札を、天井からこぼれるダウンライトの光にかざして、キラッキラッ反射させた。それを、恨めし気ににらみつけた。
ふと視線を先にやると、段ボールの上で蓋が半開きになったお菓子の缶が目についた。そっとふたをとると、無造作に入れられた手紙の束の中に、地味だけど、妙に存在感を放つ、封筒サイズの茶色の紙袋が目に入った。紙質は安っぽくて中身が透けて見えそうだけど、マチは大きめだった。中身は確かめなくてもわかる。そこには、先輩と一緒に見た映画の半券や、出先でもらったパンフレットやチケットがまとめられている。
私は中身を一気に取り出した。だけど、取り出して衝撃を受けた。
映画の半券のほとんどが、経年劣化により真っ白になっていた。そこには何年の何月何日に何の映画を見たのか、時刻まで鮮明に刻まれていたはずなのに、今はただの紙だ。
これにはかなりのショックを受けた。
まるで、私たちの思い出がすべて消え去ってしまったような、そんな気分だった。
その時確かにあった、二人の想いまで。