もう一度、君に恋する方法
4、空色のおみくじ


「浩介」と名前を呼ぶことに、はじめこそいちいち恥じらいを感じていたけど、私が大学生活や、この見知らぬ土地に馴染んで いくように、その名前は徐々に私の口に馴染んでいった。
 それと同時に、先輩との距離も、縮まっていく手ごたえを感じていた。
 相変わらず外では頼りがいのあるしっかり者の先輩は、家に帰ったとたん、いたずらっ子のような笑みを見せ、子どもっぽく甘えてくるようになった。
 そして先輩は、認識していた以上に不器用で、家事は全くダメだった。

 だからって、嫌いになったり、幻滅したりはしなかった。むしろ、嬉しかった。「先輩」ではなく、「水野浩介」の素顔が見られることが。私にその素顔を見せてくれることが。私も見せていいんだと思った。もっと甘えてもいいんだと思った。もっと素直になってもいいんだと。

__彼氏なんだ。

 ここに来てようやく、その実感がわいてきた。

 私たちの間にあった「先輩・後輩」、「年上・年下」の壁が、少しずつ消えていく。
 そして思いはさらに膨らむ。気持ちが昂る。以前よりもずっと、大きく、深く、熱く。

 もっと一緒に、ずっと一緒に、いたかった。だから、浩介の家事力が全くないことを口実に、私は浩介の家に通い詰めた。私だって、そこまで家事が得意なわけではない。だけど、浩介の身の回りのことをやるのは、嫌いじゃなかったし、むしろ嬉しかった。浩介のために、浩介を思って時間を過ごすこと。その時間が、何より好きだった。


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