もう一度、君に恋する方法


__はあ、最悪。

 朝からの不調の原因が分かった。
 生理だ。
 朝からのイライラと頭痛の正体が分かったところで、改めて体にその重みを感じる。

 トイレから出てくると、テレビがつけっぱなしだった。テレビの向かい側では、颯太と俊介がソファの上で眠っている。二人の体の下には、もう何日もたたむのをあきらめている洗濯物が敷き詰められていた。
 見渡した部屋の中に、ため息が勝手に広がっていく。ダイニングテーブルは食べ散らかされたまま。ソファやローテーブルの周りには、何か工作でもしていたのか、折り紙や空き箱をはさみで切った残骸が散らばっている。細かいおもちゃも出しっぱなし。
 それを拾う気にもなれず、私は代わりにリモコン拾って、やかましく流れるテレビを消した。
 洗濯物の山の中からこぼれ落ちたバスタオルはすっかりシワくちゃで、使用済みバスタオルと見た目はほぼ変わりない。そのバスタオルを、二人にそっとかけた。

 まだお風呂も歯磨きも終わっていないのに。

 まあ、明日から夏休みだから……。
 ……明日から、夏休みなのに。

 明日からが地獄なのに、今生理、来る?

 私にとって生理のはじめは、どん底並みに最悪だった。
 やる気が出ない。体はだるい。とにかく眠い。お腹も頭も痛い。
 どうして女子にはこんな日がやってくるのだろう。

 私は戦っていけるだろうか。この一か月という長い休みを。初日から生理を抱えて。いつも以上にイライラして、爆発して、手が出てしまって……。

 そこまで考えて、はっとなった。
 こうして一人でぼんやりしていると、最悪のことばかり頭に浮かぶ。
 私はそれを頭から振り切るように、力強くクローゼットに足を運んだ。そして床に置いた紙の束を再び手にした。息を整えて、先ほどの続きに取り掛かった。
 思い出を辿るように順に見ていくと、思わず目をきらめかせてしまった。

「うわあ、若っ」

 中からは、証明写真が出てきた。私の写真ではない。浩介の、就職活動用の写真だ。

 思わず笑みと共に笑いが一緒に漏れた。
 そこにはあの頃の浩介が、確かにいた。
 履歴書用の硬い作り笑顔の浩介と、久しぶりの対面だった。
 今よりもずっと痩せている感じがした。今の浩介とは少し違う。顔つきも、雰囲気も。今よりずっと、子どもっぽくて、初々しい。
 今でこそそう思うけど、あの頃は、大人っぽく見えていた。

__浩介も、変わったんだなあ。

 こうして思い出を振り返らないと気づけなかったのは、どうしてだろう。
 毎日一緒にいるはずなのに、毎日浩介を見ていたはずなのに。
 いや、気づかなくて当然なのかもしれない。
 だって浩介は、本当にあの頃と何も変わっていないから。
 その優しさも、あの笑顔も。


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