もう一度、君に恋する方法

 浩介が今勤めている会社から内定をもらったのは、浩介が四年生になった夏休みの少し前のことだった。私は待ち合わせ先のカフェでその報告を聞いた。他の会社の面接日だった浩介は、スーツを着て現れた。
 いかにも社会人っぽい浩介と、いかにも学生っぽい私が一緒にいるのはなんだかちぐはぐだった。その違和感に気づいた私は、浩介がスーツでやって来るとあらかじめわかっている日は、スーツ姿の浩介に見た目も雰囲気も寄せようと、いつもより少しメイクも気張って、服装も大人っぽいものを選んで、普段つけないようなアクセサリーで着飾るようにしていた。そうしたところで、何も変わらないことはわかっていた。
 学生の私と、社会人になる浩介。同じように歩幅を進めているはずなのに、どうしても浩介の方が先に行ってしまうのは、仕方のないことだ。たかが二歳差、されど二歳差。たった二年の差が、私たちの間に見えない壁を再び作る。その壁は、こんな小細工では取っ払えない。

「ねえ早矢香、夏休みさ、旅行行かない?」

 得意でもないコーヒーをちびちびすすっていると、浩介が身を乗り出してそう言った。
 私は苦味にしかめた顔を、そのまま上にあげた。

「旅行?」
「卒業旅行、付き合ってくれない?」
「卒業旅行って、卒業しない私なんかと行っても意味ないじゃん。それよりも浩介は一緒に行く人たくさんいるでしょ? この前も、部活の人に誘われてたし」
「みんなとは三月に行けばいいんだよ。それより、俺は早矢香と行きたいの。二人で泊まりの旅行なんて行ったことないし。九月も夏休みなんて、大学生の特権じゃん。どこも空いてると思うし、ちょっと遠出してさ。この時期に行けるのも、今年が最後だから」

__最後……。

 そう言われたら、私たちにはほんとにもう、そんな自由な時間は訪れないような気がして、むやみに胸がざわついた。
 二人で笑って、誰にも、何にも阻まれず、一緒にいられる時間は、今しかないような気がして、急に胸の内が暗くなった。


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