もう一度、君に恋する方法
なんと説明していいのかわからなかった。
四年も付き合ってきて、浩介に生理の話をしたことは一度もなかった。話題に出ることも、触れられることもなかった。
生理の時はたいてい体調も気分もよくなくて、ひどいときは家にこもっている。そんな時、浩介には、「ちょっと体調がよくない」とだけ伝えていた。浩介は私の言葉を素直に受け止めて、「大丈夫?」と言葉をかける程度だった。恐らく、季節の変わり目とか、風邪とか、そんな風にしか思っていなかったのだと思う。
どうして今まで生理のことを伝えなかったのか。理由は単純だった。
そんなこと、男の人に言うもんじゃないと思っていたからだ。
わざわざ言う必要もないし、第一、男の人に生理であることを告げること自体、いけないことのように感じていた。
男子だって保健の授業でそういった話は聞いているはずだから、今さら隠す必要なんてないとわかってる。だけど、生理は男子には知られてはいけない、女子だけの秘め事のように私は感じていた。
普段から男子には生理だということを悟られてはいけないし、わざわざ言うなんてもってのほか。時代遅れな考えかもしれないけれど、そうしなければいけないような気がしていた。それが、女子として守るべきことのような。
私が生理であることを告げると、浩介は何も言わずに立ち上がって、自分の荷物をあさり始めた。そして取り出したものを私の腕に押し付けてきた。
「立てる?」
「え? う、うん……」
「とりあえず、トイレでこれに着替えな。俺はお会計して待ってるから」
そう言うと、浩介は私の荷物を持って先に座敷を降りた。私の足元に靴を揃えて置くと、手を差し伸べて履くのを手伝ってくれた。そして私の背後を隠すように、ぴったりと後ろから歩いてきて、トイレまで送ってくれた。
トイレに入って、浩介が手渡してくれたものを見た。それは、浩介のズボンと、靴下だった。
私は狭いトイレの中でそれに着替えた。浩介のズボンは裾が長すぎてまくらなければいけなかった。ウエストは、悔しいけどぴったりだ。汚したらどうしようなんて思いながらも、旅行早々からずっと抱えていた絶望や不安から救われた安心の方が大きかった。
すでにお会計を済ませた浩介は、まるでSPのようにトイレの前で私を待っていた。
「ホテル、もうチェックインできるみたいだから、行こうか」
そう言って、私の手を引いて店を出た。
「ごちそうさまでした」
お店の人に、そう言いながら。