もう一度、君に恋する方法
八時半なんていう早い時間に業者の人が荷物を取りに来るから、それまでに部屋を片付けないと、ということで、二人で浩介の荷物をまとめた。その時間さえ、未来の話で盛り上がり、時には思い出話に花を咲かせた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。浩介と歩んできた人生はこんなにも愛おしく、浩介と歩む未来はこんなにまぶしくて、こんなに希望があって、こんなに楽しみがあって、笑顔しかない。
辛いことも、苦しいことも、私たちなら一緒に、どんなことでも乗り越えていけるような気がした。
無事業者に不用品を回収してもらって、引っ越し業者も浩介の荷物を取りに来た。
「もっと早くやっとけばよかったな」
汗をにじませた浩介はそう言った。すがすがしいその顔に、もう昨日の浩介はどこにもいない。
その表情に見とれてぼんやりしている時だった。
「あれ? 浩介」
その声に、私たちは同時に振り返った。
「……母さん」
浩介がぽつりとそう言ったのを聞いて、私はばっともう一度その人を見た。
「お母……さん」
目元のきりりとした、少々気の強そうな感じの女性がそこにいた。その隣にはいかにも温厚そうな男性。そしてその後ろから、女性の顔だちによく似た女性がこちらに向かって歩いてくる。
浩介の、お父さんとお姉さんなのだろう。三人は落ち着いた様子でこちらに歩いてくる。
四人が合流すると、その空気は一気に馴染んで、どう見ても家族なんだってことがわかる。
この家族が今からバラバラになるなんて、微塵も感じさせない。はたから見たら、とても仲のよさそうな家族に見えた。だってみんな、すがすがしいほどに笑顔だったから。その中で、浩介の空気だけが、まだ揺れているように見えた。
「荷物の整理終わった?」
「うん」
その会話をひっそりと気配を薄くして見ていると、お姉さんと目が合った。
「もしかして、浩介の彼女?」
どうしていいかわからず返事にまごついていると、浩介の方からこちらにやってきた。
そして私の手を握って家族のもとへ連れていく。
突然訪れた家族との対面に、急に緊張して胃がキリキリとなった。そこに、浩介の声がお腹に優しく響いた。
「俺の、お嫁さん」
その言葉に、顔も体も全部、じわじわと熱くなる。
みんながきょとんとした顔で私たちを見ているのが、空気で伝わってくる。
だけど、私の隣にたたずむ浩介だけは、堂々としていた。穏やかな声とは裏腹に、力強く握られた手を、私はぎゅっと握り返した。
夏の朝の光がキラキラと爽やかに私たちを差す。その光は強く、まぶしく、私は思わず、目を細めた。