それは過剰で艶やかで 【完】
「はい、美鳥さん。ミルクティーです」

「どうも……」

 金彩のアラベスク模様で彩られた白磁のティーカップ。前に頼んだときより、わずかにミルクティーの色が淡い。気のせいだろうか。

 口をつけると、まろやかな風味が口いっぱいに広がった。

「うわ、やだ。ケチャップついちゃった」

 ブラウスの袖口についたケチャップを紙ナフキンで拭いながら、白川さんは眉を下げた。まだ下ろしたばかりだという薄ピンクのシフォンブラウス。春風を纏うようなふわりとしたシルエットがよく似合っている。

 かわいい、なんて言葉は白川さんのような女性に使うべきだ。

「私、ちょっとお手洗い行ってきます。落ちるかなあ」

 しょげた顔で白川さんが席を立つと、入れ替わるように翠がやってきた。いくら水曜で店が空いているからといって、こんなにも自由でいいのだろうか。

「美鳥さん、今日も素敵ですね。そのストライプのシャツ、よく似合ってます」

「前にも一度、着てきたけど」

「いえ、前に着ていたストライプのシャツは、もう少し太いストライプでした。シャツの白色度も違いますね」

 即答された。適当に褒めていると思ったのに、そうでもないのか。いや、たんに記憶力がいいだけか。なんだかむず痒くなってしまい
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