それは過剰で艶やかで 【完】
「それより、ミルクティー。今日はいつもよりミルクが強い気がするけど」

 と話題を逸らした。

「ああ、気づいてくれたんですね。そうです。わざとです」

「わざと……?」

「美鳥さん、お疲れのようだったので。まろやかな方がいいかと思ったんです。お口に合わないようなら淹れなおしますけど」

 翠はわずかに笑みを浮かべた。見透かすような眼差しに、いたたまれない気持ちになる。

「いや、べつに……わざわざ淹れなおさなくても」

 ごにょごにょ言うと、くすりと微笑まれた。まだ、子どものくせに。

 翠と話していると、ときおり歯切れが悪くなってしまう。眼鏡の縁を押し上げ、位置を調整する振りをして場をつなぐ。

「美鳥さん、口あけてください」

「は?」

 あまりに唐突な発言に、思わず乱暴に返した。聞こえていないと思ったのか、翠はもう一度言った。

「口、あけてください」
< 11 / 76 >

この作品をシェア

pagetop