それは過剰で艶やかで 【完】

　ここ数日で、ぐんと高まった気温。

　べたつく肌とくらくらする頭を冷却するように水分補給をすれば、部長によって温度を下げられたエアコンの風でぶるりと震えた。先週通達された『地球温暖化防止対策への取り組みのお知らせ』は、どうやら部長にはまったく響いていない。

　ため息をつく代わりに立ち上がり、屋上へ向かった。扉をひらけば、すぐさま白いひかりが全身を包んだ。急速解凍される身体。ぬるま湯のような心地よさにうっとりしてしまう。

「お疲れ、美鳥」

　声のする方に視線をやると、ソファーにくったりと背中をあずける山名さんの姿を見つけた。お疲れ様です、と山名さんの斜め向かいに腰を下ろす。

　軽く瞼を閉じて息を吐くと、春から夏へと移りゆく、どっちつかずなグラデーションが香った。

　――喫煙所は会社設立当初からあって、喫煙者は当たり前のように煙草休憩に行くのに、非喫煙者のための息抜きできるようなスペースはないですよね？

　山名さんが上司にそう訴えてくれたおかげで、わが社の屋上はカフェのテラス席のようにソファーやテーブル、手入れの行き届いた観葉植物が置かれている。

　仕事に行き詰まったときには煙草休憩ならぬ日光浴休憩に来ては、縮こまってガチガチになった身体を解きほぐす。