それは過剰で艶やかで 【完】
「あはは。美鳥も部長の被害者?」

 肩をさすっていると、山名さんはからかうように笑ってポニーテールを揺らした。

「私もすっかり首回りが冷えて、肩こってきちゃったよ。あ、美鳥って明日の午前中は外回り?」

「はい。といっても一社ですけど」

「それなら午後は半休ね」

「はい?」

「明日は直行直帰で、午後は半休ね」

「え、半休って」

 たじろぐと、山名さんはこちらに身を乗り出して眉を吊り上げた。

「ぜんぜん有給休暇とってないでしょ。白川さんや他の子のフォローやらなんやらで、美鳥の範囲外のことまでしてるし。それに、家でもこっそり仕事してるでしょ」

「いや、そんなことは」

 どうしてそれを――と考え、おそらく山名さんに渡したデータの更新日時でばれてしまったのだろうと気づいた。詰めが甘かった。

「いいからいいから。明日は半休とりなさい。金曜日だからちょうどいいでしょ」

 有給はたっぷり残っていた。時効になるまでに消化しようと思っても、なにかアクシデントが起きてしまったらと考えると、有休を取得する気にはなれなかった。山名さんはそんな状況を見兼ねてくれたのだろう。

 だけど、休むのはどうも気がひけてしまう。
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