それは過剰で艶やかで 【完】
「今日はおひとりなんですね」
翠は唇の端だけで微笑み、ミルクティーを差し出した。ほわりと湯気が立ち昇る。
「白川さん、体調くずして休みだったから」
「ああ、それで。はじめてですよね。美鳥さんがおひとりでいらっしゃるのは」
ゆるやかに目を細められ、じわりと体温があがる。こちらを撫でるような視線。まさか自分以外に客がひとりもいないとは思っていなかった。
窓の向こうでは雨がアスファルトを叩き、道ゆく人の傘はびゅうびゅうと風で煽られていた。激しく騒がしい夜。それなのにティーカップをテーブルに置くわずかな音や、翠の靴音がやけに響く。息遣いまで聞こえてしまいそうなくらいの静寂。
喉が、苦しい。
「この前のお礼を早く言おうと思っただけで……」
「べつにお礼なんていいのに」
翠は靴音を鳴らし、一歩近づいた。至近距離で見下ろす視線が蜜のように絡む。ふたりきりのせいか、いつもより過剰な振る舞い。雨はアスファルトだけでなく、心臓まで激しく叩いた。
翠は唇の端だけで微笑み、ミルクティーを差し出した。ほわりと湯気が立ち昇る。
「白川さん、体調くずして休みだったから」
「ああ、それで。はじめてですよね。美鳥さんがおひとりでいらっしゃるのは」
ゆるやかに目を細められ、じわりと体温があがる。こちらを撫でるような視線。まさか自分以外に客がひとりもいないとは思っていなかった。
窓の向こうでは雨がアスファルトを叩き、道ゆく人の傘はびゅうびゅうと風で煽られていた。激しく騒がしい夜。それなのにティーカップをテーブルに置くわずかな音や、翠の靴音がやけに響く。息遣いまで聞こえてしまいそうなくらいの静寂。
喉が、苦しい。
「この前のお礼を早く言おうと思っただけで……」
「べつにお礼なんていいのに」
翠は靴音を鳴らし、一歩近づいた。至近距離で見下ろす視線が蜜のように絡む。ふたりきりのせいか、いつもより過剰な振る舞い。雨はアスファルトだけでなく、心臓まで激しく叩いた。