それは過剰で艶やかで 【完】
「……チョコ」

 ぽつりと呟くと、笑い声はぴたりと止んだ。

「あのチョコ、どこのブランド? どこにもブランド名がはいってなかったけど」

「どうして訊くんですか」

「買ってみようかと思って」

「気に入ってくれましたか」

「うん。まあ……」

 翠からもらったものを気に入ったと言うのは無性に恥ずかしかった。けれど恥ずかしい思いをしてもいいと思えるくらい、あのチョコレートを欲していた。

 お酒には弱い体質で、ブランデーのはいったチョコレートには眠気を誘われた。とろける
ような、うっとりとした夢心地。まるで溶かしたチョコレートにゆっくりと全身をのみこまれてゆくようだった。

 目を覚ましたときには、部屋は鮮やかな夕焼けに染められていた。手のひらをじっと見て、ひとつずつ指を動かし、自分の身体がちゃんと存在していることをたしかめた。それくらい、なにもかもを手放してぐっすりと眠れた。

「あのチョコレート、なかなか手に入らないんですよ。また今度、プレゼントしますね」

 また今度と言われても、そう何度もプレゼントなんて受けとれない。年下の――ましてや、自分を好きだと言ってからかってくる相手からのプレゼントなんて。
< 35 / 76 >

この作品をシェア

pagetop