それは過剰で艶やかで 【完】
悶々としていると、翠はちいさな笑みを残してカウンターへ戻っていった。BGMが変わる。
胸をなぞる、ゆったりとしたイントロ。泣き出すようなピアノの音色が雨音と調和して、儚く濡れたメロディーを紡いでゆく。まるで、静謐な子守歌。
この曲をはじめて聞いたのは美術館だった。クラシックに興味をもったことはないけれど、この曲は不思議と心地よく、すんなりと耳に馴染んだ。
そう、あれは恋人との二回目のデートで行った美術館だった。
「いらっしゃいませ」
ベルが鳴り、ふたり連れの女性客がやってきた。翠と同じくらいの年頃の、砂糖菓子でできたような女の子たち。
雨だというのに少しも乱れていない前髪に、オフホワイトのワンピース。裾についた雨粒をちいさな手で軽く払い、翠を見上げて頬を染める。瞳に宿る無数の星がきらきらと瞬いた。
ああ、これが翠目当ての客か。
「またいらしてくださったんですね」
ふたりを席へ案内しながら、翠はにっこり微笑む。
胸をなぞる、ゆったりとしたイントロ。泣き出すようなピアノの音色が雨音と調和して、儚く濡れたメロディーを紡いでゆく。まるで、静謐な子守歌。
この曲をはじめて聞いたのは美術館だった。クラシックに興味をもったことはないけれど、この曲は不思議と心地よく、すんなりと耳に馴染んだ。
そう、あれは恋人との二回目のデートで行った美術館だった。
「いらっしゃいませ」
ベルが鳴り、ふたり連れの女性客がやってきた。翠と同じくらいの年頃の、砂糖菓子でできたような女の子たち。
雨だというのに少しも乱れていない前髪に、オフホワイトのワンピース。裾についた雨粒をちいさな手で軽く払い、翠を見上げて頬を染める。瞳に宿る無数の星がきらきらと瞬いた。
ああ、これが翠目当ての客か。
「またいらしてくださったんですね」
ふたりを席へ案内しながら、翠はにっこり微笑む。