それは過剰で艶やかで 【完】
「翠さんに早く会いたくて。雨だからお客さんも少ないだろうし。今日こそ翠さんの好みのタイプを教えてください」

「昨日、答えたじゃないですか」

「かわいいひと、なんて抽象的すぎてわからないですよ。もっとちゃんと教えてください」

 女の子はちっとも怒っていない声色で言い、もぎたてのさくらんぼのような唇をツンと尖らせた。かわいいひと。それはきっと、こういう生き物。

 ティーカップの底を眺めながら、ため息をのみこんだ。財布から抜きとった千円札をテーブルに置き、席を立つ。

「美鳥さん、もう帰るんですか」

 翠の靴音がすぐに後ろから追いかけてきた。女の子たちの視線が背中に刺さる。

「代金はテーブルに置いたから。ごちそうさま」

「もう少し雨が落ち着いてから帰った方がいいですよ」

「いい。待ったからって落ち着くとは限らないし」

 ガラス越しに外を見れば、雨の勢いは増していた。アスファルトを抉るように容赦なくざんざんと降りそそぎ、道ゆく人は必死に抗おうとするが、傘は強風によって反り返っていた。
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