それは過剰で艶やかで 【完】
「そういえば、平野さんって知ってる? 美鳥と同期だと思ったけど」
「ああ……知ってます」
「平野さん、秋に結婚するんだって。さっき部長と話してるのが聞こえちゃった」
瞼が、しっかりとひらいた。穏やかではない感情が胸を覆い、暗く蠢く。
まだつき合いはじめる前、会社の飲み会で「早く結婚して、家庭をもちたい」と平野さんはこぼしていた。同じ会社にいる以上、いつか平野さんが結婚するときは耳に入ってくるだろうとは思っていたけれど、まさかこんなに早くその日がやってくるとは。
「そうですか。あ、山名さんってマクロ得意ですよね。エクセルの集計がどうも合わないので、少し見てもらいたいんですけど」
「ああ、いいよ。見る見る」
「ありがとうございます。少しでも効率よくしようと思ったんですけど、なかなかうまくいかなくて」
そのとき、ガチャンと重い音を立てて屋上の扉がひらいた。二、三人の足音が重なり、大きな話し声が耳に入る。
「お財布忘れちゃった。お金貸してくれる?」
「いいよー」
足音はソファーとは反対方向にある自販機へと向かっていった。こちらの存在には気づいていないのか、彼女たちの話すトーンは一向に変わらない。
「ああ……知ってます」
「平野さん、秋に結婚するんだって。さっき部長と話してるのが聞こえちゃった」
瞼が、しっかりとひらいた。穏やかではない感情が胸を覆い、暗く蠢く。
まだつき合いはじめる前、会社の飲み会で「早く結婚して、家庭をもちたい」と平野さんはこぼしていた。同じ会社にいる以上、いつか平野さんが結婚するときは耳に入ってくるだろうとは思っていたけれど、まさかこんなに早くその日がやってくるとは。
「そうですか。あ、山名さんってマクロ得意ですよね。エクセルの集計がどうも合わないので、少し見てもらいたいんですけど」
「ああ、いいよ。見る見る」
「ありがとうございます。少しでも効率よくしようと思ったんですけど、なかなかうまくいかなくて」
そのとき、ガチャンと重い音を立てて屋上の扉がひらいた。二、三人の足音が重なり、大きな話し声が耳に入る。
「お財布忘れちゃった。お金貸してくれる?」
「いいよー」
足音はソファーとは反対方向にある自販機へと向かっていった。こちらの存在には気づいていないのか、彼女たちの話すトーンは一向に変わらない。