それは過剰で艶やかで 【完】
 ばしゃん、と子どもが水たまりで飛び跳ね、派手に水しぶきを浴びた。

 町ゆく人が憐れみの視線を向けるなか、昨日の夜の雨はすごかったな、と冷めた思いで振り返る。

 今夜もまた、天気予報は雨。

「すみませんすみません。クリーニング代、お渡しします。ほら、あっくんもちゃんと謝って!」

 駆けつけてきた子どもの母親が、ぺこぺこ頭を下げる。子どもはちいさな唇を尖らせ、ばつが悪そうに地面を睨んだ。母親に強く肩を揺さぶられても、その視線はぶれない。

「あっくん! どうしてごめんなさいが言えないの! ほんとうにほんとうに、すみません」

 縋るように謝られ、大丈夫ですから、と言ってその場をあとにした。翠に謝れなかった自分が、この子を責められるわけがない。

 頬を拭えば湿った土の匂いがした。それすらも報いを受けたようで、むしろ清々しかった。報いというには、ちっとも足りないけれど。

 横断歩道で信号が変わるのを待っていると、背後から服の裾をぐいっと引っ張られた。いったいなにごとかと振り返ると、さっきの子どもがこちらをじっと見上げていた。つるりとした大きな瞳。
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