それは過剰で艶やかで 【完】
 普段子どもと触れ合うことなんてないから、どうしたらいいのかわからない。ちいさな未知の生き物に怯んでいると


「ごめんなさい!」

 目が覚めるくらいの大きな声だった。

 ああ、この子はちゃんと謝れるんだな。鋭い痛みが胸を突く。

 やがて緊張がピークに達したのか、大きな瞳はぷるぷる震えだした。慌ててしゃがみ込み、視線を合わせて「大丈夫だよ」とぎこちなく笑ってみせると、子どもはほどけるように微笑んだ。

 大声のごめんなさいと、翠からのごめんなさいを反芻しながら会社へ着くと

「え、ちょっと、美鳥。なんでそんなに濡れてるのっ!」

 ぎょっとする山名さんに、「なんでもないです」とだけ返して自席に向かう。すると今度は自分が驚く番になった。

 デスクの中央に、ちいさな花――のついたカップケーキが置かれていた。

 最初は花が置いてあるのかと思ったけれどそうではなく、カップケーキのてっぺんに絞られたホイップクリームに、ぱっきりと鮮やかな紫の花が添えられていたのだ。誰かのお土産か、お客さんからの差し入れだろうか。
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