それは過剰で艶やかで 【完】
「それ、エディブルフラワーっていうんです。食用の花だから食べられますよ」

 はっとして振り返ると、白川さんが立っていた。ケチャップがついてしまった、と嘆いていた薄ピンクのシフォンブラウスを着て。心なしか、あのときよりもブラウスの生地が余っているように見える。

「白川さん……」

 もう大丈夫? 病み上がりだから、無理しないで。
 そんな言葉が浮かんでくるものの、果たして合っているだろうか。大丈夫かと訊かれたら、「大丈夫」しか答えはない。無理しないでと言われて、無理をしないわけがない。

 いくら逡巡してもあとに続けるべき言葉がわからず、エアコンだけがごうごうと唸る。

「あの……長々休んで、ご迷惑をおかけしましたっ」

 深く、深く。フロアにつくんじゃないかと思うくらい、白川さんは頭を下げた。顔を上げるように言っても、なかなか上げてくれない。ようやく顔を上げてくれたかと思えば、目も瞼も赤々としていた。

 自分が白川さんを追い詰めてしまったという事実を突きつけられる。たとえそれが無意識だったとしても、そんなことは関係ない。残った結果が、なによりの真実。

「美鳥さん。あの、五分くださいっ」

「五分?」

「屋上、行きましょう」
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