それは過剰で艶やかで 【完】
 ブラウスの袖口から覗く、骨の浮いた手首。ファンデーションで隠しきれない瞼の腫れ。

 せめて雲が。雲が、どうか少しでも動いて、少しでもひかりを注いでくれたらいいのに。空からは重く湿った匂いしかしない。

「そんなに……そんなにうまくは、できないよ。誰だって」

 言葉は、はらりと唇からこぼれ落ちた。目をまん丸くした白川さんが上目遣いで見つめる。なにか間違ったことを言ってしまったのではないかと焦る。

「それって、つまり美鳥さんにもそういうときがあるってことですか?」

「うん」

「意外」

「意外?」

「美鳥さん、いつも落ち着いてるから意外だなって。びっくりしました」

「……そんなことないよ」

 曇らせてしまった琥珀色の瞳。翠にはまったく関係のない自分事で声を荒げて、きちんと謝りもせずに逃げ出した。

 翠を子ども扱いしておきながら、自分のやっていることはまったく大人の対応ではなく、かといって子どものような素直さも持ち合わせていない。どっちつかずで宙ぶらりん。なんという格好の悪さ。

「美鳥さん、なにかあったんですか。あ、もしかして翠さんですか?」

「え、あ……」

 しどろもどろしていると、白川さんは気にする様子もなく話を続けた。
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