それは過剰で艶やかで 【完】
* * *
うちの体温計はぜったいに壊れてる。
こんなに熱があるわけがない。とはいえ起き上がるのも億劫で、ベッドに寝転がったままだらりと床に手を垂らし、カーペットに体温計を置いた。
――美鳥、今日は帰りなさい。
山名さんから有無を言わさぬ圧をかけられたときは困惑した。だけどこうしてベッドに横たわっていると、山名さんがいかに正しく、自分がいかに体調管理をできていなかったのかを実感する。
白川さんがてきぱきとタクシーを手配してくれたことには救われた。いくら会社から近いとはいえ、このどんよりとした雨のなかを歩いて帰るのは精神的にも削られただろう。帰宅してどうにかシャワーを浴びた身体は、濡れ雑巾のように重い。
なにもしたくない。なにも考えたくない。
四角い天井を眺めているうちに、視界はうとうと幕を閉じた。
上下する胸。熱くて深い呼吸。使い物にならない身体。雨はテレビの砂嵐のようにザアザアと鼓膜を刺激する。
最初のうちは程よいBGMのようにも感じられたけど、次第にわずらわしくなった。布団にもぐったり、頭を抱え込んでみたものの、寝つけそうにない。