それは過剰で艶やかで 【完】
 ふと、こちらへ向かってくる翠と目が合いかけた。急いで顔を背け、なにもない壁紙を見つめる。翠の視線は頬に刺さり、じわりと額に汗が滲んだ。そうやってこちらの反応を楽しむのが、翠のやり方だ。

「お待たせいたしました。ご注文をどうぞ」
「私はローズヒップティーとほうれん草のキッシュのセットを。美鳥さんは?」

「ミルクティーを」

 ぼそりと告げると、白川さんが

「それだけですか?」

 と訊いた。

「夜九時以降は食べないことにしてるから。白川さんは気にしないで食べて。お昼休憩だって、まともにとってなかっただろうし」

「あ、バレました? ちょっと急ぎの対応に追われちゃって。というわけで翠さん、以上でお願いします」

「かしこまりました」

 翠は一礼してカウンターへ向かった。白川さんがにたにたと満足げに微笑む。

「美鳥さんって、翠さんの淹れるミルクティー好きですよね」

「え?」

「だって、翠さんがいないときにはミルクティー頼まないじゃないですか。気づいてますよ、私。翠さんがいるときだけ、必ずミルクティーを頼んでること」

「ぐうぜん。ただの、ぐうぜん」

「美鳥さんって、そういうところかわいいですよね」

 かわいい。白川さんにまで言われてしまった。
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