それは過剰で艶やかで 【完】
 気持ちはわかる。だけど鮫島さんは鮫島さんで、エンジニアチームを管理している立場として、ただにこにこ笑顔で引き受けるわけにもいかないのだろう。先月はチームの稼働時間がおそろしい数字になって上からどやされた、と漏らしていた。

 それぞれの立場、それぞれの事情。やり場のない鬱憤が溜まっては、ときに爆ぜる。誰だって好き好んで怒ったり責めたりしているわけではないのだ。

「あー、権力が欲しい。そしたら鮫島なんて、さっさとどっかの離島に飛ばすのに」

「うちの支社、離島になんてないけど」

「飛ばすためにつくるんですよ」

 白川さんが両の拳をぐっと握りしめていると、翠がローズヒップティーを差し出した。ガラスのティーカップのなかで鮮やかな薔薇色が微かに波打つ。

「わ、きれい。ありがとうございます、翠さん」

「キッシュもすぐにお持ちしますね」

 翠に微笑まれた白川さんは、はぁいと間延びした声で返事をしてローズヒップティーに手をのばした。

 琥珀色の瞳はゆっくりと(なぶ)るようにこちらに向けられる。
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