好きを教えてくれた君へ
理想の人
話下手
プロローグ
西沢高校の入学式、その日僕は少し緊張気味だった。もちろん入学式と言う事もあるけれど、誰も知らないところへ放り込まれたから。入る前は自信満々だったのに、一人ぼっちになった途端に涙が溢れそうになった。
僕は幼稚園から、大学までの付属学校に通っていた。みんな顔見知りで、外から入ってくる子は居たけれど、僕自身がその輪から出たことは無かった。それに父が世襲政治家だったので、みんな僕に良くしてくれた。
でも今はその手札も無い。自分自身が試されていると思った。何もかもが分からない世界だったから。
そんな中で、一人だけ僕の緊張をほぐしてくれた。新入生代表での時だった。僕には関係ないことなので、目の前を見ているだけだった。けれども目を奪われた。多分そこにいた全員が。
入学生の間を歩いていく、その姿はランウェイを歩いているみたいで、ファッションショーでも行われているみたいだった。長い手足、艶のある黒い髪。髪から見える細長い首、それでも顔は小さかった。
これを一目惚れと言うのかもしれない。そんな呑気なことを僕は考えていた。
そして、僕は最初、本物の月見静江を見たとき、今までの理想が崩壊した。一目惚れなんて言った自分をぶん殴りたい。
月見さんはコミュニケーション能力も高いのかと思った、気も使えるのかと思った。友達は誰よりも多いのだと思った。
でも彼女は誰ともかかわることを拒んでいた。僕はショックだった。いや違う、僕が勝手に月見さんに理想なんて押し付けただけ。でも、僕は彼女がもっと活発な人なのかと思った。
それにあんなに恵まれた体をしているのに、彼女はモデルなんかじゃなかった。僕が彼女ほどの身長を手にしたのなら。そんなこと彼女の勝手じゃないか。
でも小人症なんて病気が無かったら、僕は彼女の事を見向きもしなかったかも。ただちょっとスタイルが良い人だなぁって思っただけかも。
一年生の二度目の席替え。くじ引きで行うためにあまり期待はしていない。
くじ引きをして自分の引いた番号と、黒板に貼られている紙の番号を照らし合わせて、机とイスを移動させた。
ほとんど期待はしていなかった。それが逆に良かったのかもしれない。
隣になった男子は、神崎武君だった。
明るい茶髪をしていて、くるくるとしている。軽く髪を巻いているらしい。身長は百六十センチほどで、私よりも背が低い。熊のストラップや、ピンクのウサギのストラップなど、女児が好むようなストラップをリュックに付けていて、リュックも黒やスポーツものではなく、白と黒のストライプが入った水色のリュック。
話し上手で、聞き上手、悪口を言っているところを聞いたことが無い。それでもユーモアがある。優しいけれど、嫌なものは嫌とはっきりと言える。
私がかなり尊敬している人だ。
「よろしくね。月見ちゃん」
私の苗字は月見だ。よく、苗字が名前だと間違えられる。
「よ、よろしく」
神崎君の方をちらりと見てみたけれど、今日も可愛い。もしかしたら、神崎君は女子なのかもしれないと頭をよぎったことが何度あったことか。
頭がよぎるだけで、神崎君が男の子と言う事は確定している。夏の水泳の時間で神崎君が男性用の水着を着ているところを見た。結構筋肉質だったのを覚えている。
「後ろ神崎か」
前に座っていた高橋君が後ろを向いてきた。私はサッと視線を落とした。そして私の前に座っていた幸田さんもこちらを向いた。
「よろしくね。月見ちゃん」
「うん」
「月見って苗字だよね?静江ちゃんって呼んだ方がいい?私は由紀で良いから」
「静江でいいよ」
これからは幸田さんの事を由紀と呼ぶように努力しよう。
由紀はフワフワとした、心地よくなるような声色をしている。話すペースがゆっくりだからか、少し声が高いからかもしれない。
「じゃあ、僕はシズちゃんって呼ぼう」
神崎君も話を聞いていたらしい。
「じゃあ私も」
由紀も手を上げて、それに賛成した。
そこへ私の唯一の友達と言っても過言ではない栞奈がやってきた。
「よかったね。シズ」
私は嫌な予感がして、栞奈の腕を掴んで、視線でどうにか伝えようとした。栞奈はそれが伝わったらしい。
「シズの周り良い人そうで」
ホッとした。私は栞奈に神崎君の話を良くしているので、何か言わるかと思ったから。
けれども、安堵はすぐに壊された。女子たちからの怖いほどの視線をひしひしと感じる。学年一人気者と言っても過言ではない神崎君が、陰キャの私と隣になったのだから嫉妬が飛び交うに決まっている。
私がもし美人で、コミュニケーションお化けで、神崎君と同等の人間だったら、よかったのかもしれない。でも、現実の私はそんなことない。最近告白断ったら「ブスが」って暴言吐かれたし。
西沢高校の入学式、その日僕は少し緊張気味だった。もちろん入学式と言う事もあるけれど、誰も知らないところへ放り込まれたから。入る前は自信満々だったのに、一人ぼっちになった途端に涙が溢れそうになった。
僕は幼稚園から、大学までの付属学校に通っていた。みんな顔見知りで、外から入ってくる子は居たけれど、僕自身がその輪から出たことは無かった。それに父が世襲政治家だったので、みんな僕に良くしてくれた。
でも今はその手札も無い。自分自身が試されていると思った。何もかもが分からない世界だったから。
そんな中で、一人だけ僕の緊張をほぐしてくれた。新入生代表での時だった。僕には関係ないことなので、目の前を見ているだけだった。けれども目を奪われた。多分そこにいた全員が。
入学生の間を歩いていく、その姿はランウェイを歩いているみたいで、ファッションショーでも行われているみたいだった。長い手足、艶のある黒い髪。髪から見える細長い首、それでも顔は小さかった。
これを一目惚れと言うのかもしれない。そんな呑気なことを僕は考えていた。
そして、僕は最初、本物の月見静江を見たとき、今までの理想が崩壊した。一目惚れなんて言った自分をぶん殴りたい。
月見さんはコミュニケーション能力も高いのかと思った、気も使えるのかと思った。友達は誰よりも多いのだと思った。
でも彼女は誰ともかかわることを拒んでいた。僕はショックだった。いや違う、僕が勝手に月見さんに理想なんて押し付けただけ。でも、僕は彼女がもっと活発な人なのかと思った。
それにあんなに恵まれた体をしているのに、彼女はモデルなんかじゃなかった。僕が彼女ほどの身長を手にしたのなら。そんなこと彼女の勝手じゃないか。
でも小人症なんて病気が無かったら、僕は彼女の事を見向きもしなかったかも。ただちょっとスタイルが良い人だなぁって思っただけかも。
一年生の二度目の席替え。くじ引きで行うためにあまり期待はしていない。
くじ引きをして自分の引いた番号と、黒板に貼られている紙の番号を照らし合わせて、机とイスを移動させた。
ほとんど期待はしていなかった。それが逆に良かったのかもしれない。
隣になった男子は、神崎武君だった。
明るい茶髪をしていて、くるくるとしている。軽く髪を巻いているらしい。身長は百六十センチほどで、私よりも背が低い。熊のストラップや、ピンクのウサギのストラップなど、女児が好むようなストラップをリュックに付けていて、リュックも黒やスポーツものではなく、白と黒のストライプが入った水色のリュック。
話し上手で、聞き上手、悪口を言っているところを聞いたことが無い。それでもユーモアがある。優しいけれど、嫌なものは嫌とはっきりと言える。
私がかなり尊敬している人だ。
「よろしくね。月見ちゃん」
私の苗字は月見だ。よく、苗字が名前だと間違えられる。
「よ、よろしく」
神崎君の方をちらりと見てみたけれど、今日も可愛い。もしかしたら、神崎君は女子なのかもしれないと頭をよぎったことが何度あったことか。
頭がよぎるだけで、神崎君が男の子と言う事は確定している。夏の水泳の時間で神崎君が男性用の水着を着ているところを見た。結構筋肉質だったのを覚えている。
「後ろ神崎か」
前に座っていた高橋君が後ろを向いてきた。私はサッと視線を落とした。そして私の前に座っていた幸田さんもこちらを向いた。
「よろしくね。月見ちゃん」
「うん」
「月見って苗字だよね?静江ちゃんって呼んだ方がいい?私は由紀で良いから」
「静江でいいよ」
これからは幸田さんの事を由紀と呼ぶように努力しよう。
由紀はフワフワとした、心地よくなるような声色をしている。話すペースがゆっくりだからか、少し声が高いからかもしれない。
「じゃあ、僕はシズちゃんって呼ぼう」
神崎君も話を聞いていたらしい。
「じゃあ私も」
由紀も手を上げて、それに賛成した。
そこへ私の唯一の友達と言っても過言ではない栞奈がやってきた。
「よかったね。シズ」
私は嫌な予感がして、栞奈の腕を掴んで、視線でどうにか伝えようとした。栞奈はそれが伝わったらしい。
「シズの周り良い人そうで」
ホッとした。私は栞奈に神崎君の話を良くしているので、何か言わるかと思ったから。
けれども、安堵はすぐに壊された。女子たちからの怖いほどの視線をひしひしと感じる。学年一人気者と言っても過言ではない神崎君が、陰キャの私と隣になったのだから嫉妬が飛び交うに決まっている。
私がもし美人で、コミュニケーションお化けで、神崎君と同等の人間だったら、よかったのかもしれない。でも、現実の私はそんなことない。最近告白断ったら「ブスが」って暴言吐かれたし。