ヒーローはかわいい天使さま
『もう、守られてばかりはいやだ。ぼく、くるみちゃんみたいに強くなりたい』

 雪のように白い肌と小さな身体。ぱっちりした目と胡桃色(くるみ)の瞳。陽に透かすと金色に輝くさらさらの髪をしたキミは、天使みたいに愛らしい。
 私の一番の親友。大切な、弟みたいな存在だった。

 *

「この髪は、どうしてこうも自由に跳ねるかな?」
 高校生活がはじまって五日目。今朝はアラーム時計より先に目が覚めた。憧れだったかわいい制服の袖に、うきうきしながら手をとおした。
 期待で胸がいっぱいだった。それなのに、楽しい気分は地毛によって台なしだ。

「やり直したいけど、そんな時間ない!」
 一本の跳ねもゆるせない。洗面台を占拠して一時間たったけれど、あきらめずにヘアアイロンを片手に三面鏡の中をのぞき込む。

「來実(くるみ)、もう諦めたら?」
「わっ!」
 鏡に映り込んだのは、いとこで幼なじみの日向碧維(ひゅうがあおい)だ。おどろいた拍子に温度が高くなっていたアイロン部分に一瞬、指が触れた。

「熱っ!」
 碧維は蛇口を強くひねると、私の手をつかみ、流水の中に突っこんだ。

「ごめん。急に話しかけて」
 耳のすぐそばで低い声が聞こえた。火傷の痛みは吹き飛んで、指先より頬が熱くなった。そっと彼を見ると、真剣な顔をしている。

「碧維、もういいよ」
「いや。もう少し冷やそう」
「触れたの一瞬だったし、へアアイロンのスイッチは切っていたの。だから、大丈夫!」

 手を見せ、指を開いたり閉じたりして無事をアピールする。

「痛くない?」
「うん。すぐに水で冷やしたから、平気」
 にっと笑って見せると、ようやく彼の表情がやわらいだ。

「おはよう。ねえ、迎えの時間、いつもより早いよ? 私まだ支度の途中」
「おはよ。早く着いたから外で待ってたんだけど、香奈さんに來実を呼んできてって頼まれたんだ」
「遅い私が悪いけど、ママに言われたからって勝手に脱衣所に入ったらだめ。着替中だったらどうするの!」
「髪が跳ねるって聞こえたから平気かなって」
「次からは声をかけてね」
「……ごめん」

 大型犬が叱られて落ちこむみたいに、幼なじみはしおらしく頭を垂れた。

 ――碧維の背、また伸びてる。小学生までは同じ高さだったのに。

 前まではなかった喉仏や、大きな手に戸惑う。小さくて、かわいらしかった幼なじみは最近、知らない男の人みたいだ。

「來実、髪型を変えるの? 入学式でもこの髪型だったよね」
 ヘアアイロンでまっすぐになった髪先を一束つかまれた。見つめてくる瞳はどこか切実で、胸がとくんと跳ねた。

「高校からはストレートヘアで行くの。もう、くるくるとはお別れ!」

 髪先をぱっと払う。さらさらをアピールしながら碧維に笑いかけた。
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