ヒーローはかわいい天使さま
 私の髪は、生まれたときから『ふわくる』だった。くしでていねいに()いても、すぐに小さなゴミやヘアゴムを絡めとり、巻きこむ。寝起きと雨の日は特にひどく、頭の大きさが倍になる。

 ある日、雨の日に結ばずに学校に行ったら、その爆発具合に『実験に失敗した博士』とからかわれた。それからずっと、髪は短めにしている。

 一方、いとこの碧維はまっすぐで艶やかな髪をしている。触るとやわらかく、さらさらだ。色素は薄く、生まれたときから茶色い。太陽に透けると金髪に見えてきれいだった。

 私たちは小さいころから対照的だった。初対面の人に会うと碧維は女の子、私は男の子に間違えられた。泣き虫で、どこへ行くにも私の後ろをついてきていたけれど、近ごろはすっかり頼もしい。
 彼は苦手だった小さな虫も、暗くて狭い場所もすべて平気になり、克服してしまった。身体も鍛えているらしく、体力もある。碧維が女の子に間違えられることはもうない。

 自分も成長したい。大人っぽくなりたいと思った。
 身長はすぐには伸びなくても、コンプレックスだった髪なら伸ばせる。
 高校からはストレートヘアで学校に行くと決めて、暑い夏から切るのをがまんして長くした。

「來実はどんな髪型でも似合うよ。もちろんその髪型もかわいい」
 言うことまで男前だ。照れくさくて、背を向けた。

「ありがと。碧維、また朝食抜いてきたでしょ? 一緒に食べよう」
「待って。これ、あげる」
 渡されたのは、小さな花柄のヘアピンだった。
「桜柄でかわいい。ありがとう!」
 鏡をのぞき込み、さっそく髪につけて見せた。碧維は満足そうに目を細めた。向けられる視線が気になって、顔が火照っていく。赤くなっている顔を見られないように下を向いたまま急いでリビングへ向かった。
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