ヒーローはかわいい天使さま
 朝食を済ませ家を出ると、外はあたたかく気持ちのいい陽気だった。日向家は私の家の斜め前で、庭に植えてある桜は満開だった。青い空に桜のうすいピンク色が映える。

「ママったら、『碧くんごめんね。來実が高校生になっても道を覚えられないお子さまで』だって。心配しすぎだと思わない?」
 近くのバス停に向かって歩きながらぼやくと、彼はふっと笑った。

「心配されてもしかたないと思うよ。だって來実は、過去に事件を起こしてるから」
「事件って大げさ。ただ迷子になっただけでしょう?」

 小学校の入学式の翌日、私は自信満々に学校とは真逆の道に進み、迷子になった。
 警察や家族、近所の人が探してくれたおかげですぐに見つけられたけれど翌日から、一人で登校しないように碧維が迎えに来るようになった。
 迷子の過去がある私は信用がない。中学生になっても当然のように彼が迎えに来た。でも……、

「もう、高校生なのに!」
「來実は極度の方向音痴だからね。ちょっと、急ごう。バスの時間、ぎりぎりだ」
 腕時計を見た碧維は長い足で早歩きをする。交差点を左へと曲がった。

「待って、碧維!」
 私は交差点を右へ曲がり、駆けだした。

「松居のおじさんとおばさん、おはようございます」
「おはよう。來実ちゃん」
「どこまで行くの? 私が荷物持つよ」

 幼いころから世話になっている近所の老夫婦だ。松居のおじさんは足を怪我していた。松葉杖をつき、寄り添うようにおばさんが両手に荷物を持って歩いている。聞くと二人は二キロ先の病院までバスで行くらしい。

「來実ちゃん、学校に遅れるから私たちのことはいいわよ、先に行って」
「大丈夫。同じバス停だから、一緒に行こう」
 重そうなバッグを預かった。

「そっちは俺が持つよ」
 追いかけてきてくれた碧維が、私が持つバックに手を伸した。
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