ヒーローはかわいい天使さま
「來実はおじさんの補助をしてあげて」
 道路には歩道専用がなく、通勤ラッシュで車の通りが激しかった。車だけじゃなく自転車やバイクにも気をつけながら歩く。

「來実ちゃんと松居のおじさんたち、なにしてるの?」
 コンビニの前に差しかかったときだった。広い駐車場に見覚えのある車が停まっていた。
 運転席から降りてきたのは碧維の兄、日向朱翔(あかと)だ。スーツ姿の彼は六つ上の社会人で、通勤前の朝ご飯なのか、手には食べかけのパンがある。

「朱翔くん、おは……、」
 カシャッと音がして振り向くと、碧維が朱翔に向かってスマホを構えていた。「撮るな!」とおどろく兄を無視して彼はスマホをポケットにしまうと、朱翔の車のトランクを開けた。

「兄貴、ちょうど良かった。おじさんとおばさんを病院まで送ってあげて、通り道だろ」
「病院?」と首を傾げる朱翔に、おじさんたちの事情を話す。彼は快く送迎を承けてくれた。

「來実ちゃん、碧維くん。ありがとう。気をつけて学校へ行ってらっしゃい」
 おばさんたちを乗せた朱翔の車を見送ってから、バス停へ向かって駆け出した。
 
 学校行きのバスはすでに来ていた。先に待っていた人たちが乗車していく。最後尾に並び、無事に乗車すると、空いている二人がけ座席に一緒に座った。

「危なかったぁ。間に合って良かったね」
 ふうっと息を吐き、汗を手の甲で拭いながら隣にいる碧維に話しかける。

「來実一人だったら絶対に、間に合ってなかった」
 じろりと睨まれた。

「……はい。碧維さまの仰るとおりです。一人で突っ走ってすみません。助けてくれてありがとうございます」
 深々と頭をさげた。

「勝手に走り出したから、迷子になるって心配かけたよね? ごめんね」
 思い立つとすぐに行動してしまうのは私の悪い癖だ。また迷惑かけたと落ち込んだ。すると、碧維が私の髪に触れてきて、おどろいて固まった。
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