天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 というか、さっきから失礼だなと、じとっとした目線を向ける。愛し合っていないとはいえ、旦那様のことを悪く言われるのはいい気はしないもの。

「……それ、新婚の私に言います?」
「あ、ごめんごめん。無神経だったね」

 いつものようにへらっと軽く謝った彼だが、その表情はやはりどことなく浮かない。

「でも俺は、愛のない結婚をした人たちがどうなるかを知ってるから。もし莉真ちゃんたちが恋愛結婚じゃないんだとしたら、今からでも引き返したほうがいいんじゃないかと思う」

 彼のいつになく真面目な口調はやけに真実味があって、少々胸がざわめいた。

 もしかして、城戸さん自身も愛のない結婚だったのだろうか。この間も、なにか事情がありそうな口ぶりだったし……。

 気になってつい彼を見つめていたものの、「さて、そろそろ始めますか」と言われて我に返った。

 そうだ、もう仕事に集中しなくちゃいけないのに。入籍早々、こんなに悶々とするはめになろうとは。

 オフィス内で皆が見られるディスプレイには、航空機に影響を及ぼすであろう天気の詳細を図にした悪天予想図が表示されている。波乱が起こりそうな積乱雲やらタービュランスやらの記号が記されたそれは、まるで自分の心を表したようだった。


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